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ジブリをいっぱい

――展開を唐突に感じた場面もあります。例えば、バトーと相棒のトグサが、北端の企業「ロクス・ソルス社」に向かう下りや、終盤バトーが海に飛び込むまでの下りといったものは、100分という尺を伸ばしてでも描こうとは思わなかったのですか。

押井 100分以上にすることは最初から想定していませんでした。というのも、長編アニメーションの鑑賞は90分から100分程度が限界だと思っているからです。観客は相当な集中力を強いられているはずですから。僕は、この点に関してのみお客さんの味方なんです。

――この点に関してのみ(笑)。


(c) 2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD
押井 映画は短ければ短いほどいい。「うる星やつら」など、テレビシリーズをやったことで、構成を詰めることには慣れているんです。どんなにすぐれた話も、尺におさまらなければ何の価値もないという環境でずっとやってきました。指摘された場面も当初は想定していましたが、シークエンスの中では流れていくだけのものです。むしろ、100分という長さを考えたとき、他に残すべきシーンがあると思いましたし、唐突に展開させることで、意外性を作り出すことを重視したんです。

――意外性、ですか。

押井 そもそも、演出とは意外性でしか表現できないものです。観客はそこで一種の違和感を覚え、意図を探ろうとする。印象にも残る。省略の巧拙こそが作品の巧拙であって、説明されなくても推測できればいいんです。単に説明するだけであれば、情報屋でも登場させればいい。「イノセンス」でも登場させてますけどね。むしろ、煉獄(エトロフ)に到着してからの祭礼や、暴力団事務所への突入など、一見無駄だと思える場面の方が、作品のために必要だと思いました。ただ、確かにバトーが水に飛び込む前の場面というのは残しておいてもよかった気もするかな。

――どんな場面だったのですか。

押井 バトーが、船から飛び込もうとするのをためらうという場面でした。サイボーグですから、一つ間違えば死んでしまいます。結果的には、トグサに突き落とされるようにして飛び込むんですけど。

――観たかったですよ、その場面。「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(1995年)を観ている人は、草薙素子との関係のなかでそれを対比することもできたでしょうし。


押井 いや、むしろ、今でも僕が残しておいてもよかったかなと思うのは、バトーが愛犬をトグサの家に預けに行くという場面です。最後にもつながりますし。まぁ、いまさら言っても仕方ないですけど(笑)。

――アニメーションは、まだ作り続けますか。

押井 正直言って、今はしばらく作りたくない。体の回復力も著しく落ちたし、この作品によって、明らかに命を削りました。終わった直後には、あんまり大変だったんでもうやめたいと思っていたほどです。ただ、宮(崎駿)さんと違って、僕はできもしないことは言わないんで、引退宣言はしません。あくまで今の心境です。

――押井監督が作る「攻殻」は、完結したのでしょうか。

押井 3本目はありません。あると言っている人もいるみたいですけど。大体、作品に関わる人間がもう面白がらないんじゃないかと思います。今回、アニメーターたちの意気込みには本当に驚かされましたけど、それは、「攻殻」の制約された環境への反動もあってのもの。もちろん、食えなくなって要求があれば僕も彼らも仕事ですからやるでしょう。しかし、アニメーション制作を単なる「お仕事」にしちゃ駄目ですよ。本当にそう思います。

――次回作は。

押井 今はとにかく休みたい。家に帰って、ガブリエル(押井監督が飼っている愛犬)と過ごし、実人生のことを考えたい。だから、3年になるか、5年になるか分かりませんけど、少し時間をください。

 インタビュー部屋に通された際、押井監督が一冊の本を手にしていた。タイトルを尋ねると、「夏と花火と私の死体」。乙一のデビュー作だ。「気に入った作家の本はできるだけ全部読むようにしている」という。

 帰り道、乙一の本を未読だった記者は、「夏と花火と私の死体」を購入してみた。途中、電車を乗り換えるため駅で本を閉じた際、他の著作リストが目に入り、思わず「やられた」と思った。そこにあったタイトルは「平面いぬ」だったからだ。なんと押井監督的だろう。

 次の“罠”が待ち遠しくなった。


「イノセンス」押井守監督作品

 イノセンス それは、いのち。
 主人公バトーは、生きた人形(サイボーグ)。腕も脚も、その身体のすべてが造り物で、残されているのはわずかな脳と、ひとりの女性の記憶だけ。人間と機械の境界線が限りなく曖昧になった時代、ヒトは、人であることを忘れた。それでも、自分が人間でありたいと求めた男の、孤独な“魂(ゴースト)の乱交”を押井守が描く。

(c) 2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD
2004年3月16日  読売新聞)
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