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ジブリをいっぱい

 ジブリ作品では、鈴木プロデューサーが公開前に関係者を集め、合宿を行う。宣伝計画を考えるにあたって、作品について徹底的に議論するためだ。内容に対する関係者の知ったかぶりを許さない彼らしい方法だ。

 「イノセンス」でも、熱海で合宿が行われた。全員が携帯電話の電源を切り、映画のことだけを考える時間。この合宿で、鈴木プロデューサーは大きな手ごたえを感じたという。

――合宿の様子は。

鈴木 僕にプロデューサーとして優れている部分があるとすれば、自分が抱えた作品を客観的に見る努力をすることだと思っています。合宿では、製作委員会として参加している皆さんが、僕と同様に「イノセンス」に対して客観的になってもらえるかが一番の課題でした。フィルムを繋いだものを観てもらって、一晩たってから一人ひとりに意見を言ってもらいましたが、それを聞いた限りでは、とてもうまくいったと思います。自分が抱えた作品だから、熱くなるのは当然なんです。でも、それだけじゃ観てもらえないということを、当事者が自覚しないと。

――そもそも「イノセンス」の前作「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(95年)をどうご覧になっていたんですか。


鈴木 ネットだのそこから生まれた子どもだのというのは、私にはよく分かりませんでした。それは、押井さんにもはっきり伝えていますし、公共の場でも発言してきました。

――「イノセンス」は、「攻殻機動隊」と同じキャラクターが登場するなど、設定からしてその「よく分からない作品」の延長線ではありませんか。

鈴木 別の作品ですね。「攻殻機動隊」同様、近未来の設定になっていますが、描かれているのは、あくまで現代だと思っています。これを大切に訴えていきたい。主人公のバトーはサイボーグですが、これはいわば現代の人々そのものなんですね。孤独で、体がロボット化していて。

――誰にも思い当たる節があると。

鈴木 特に女性に観てほしいと思っています。男は、馬鹿をやってきましたけど、女の人は、ずっと大変だったと思うんです。毎年、日本人の平均年収なんてのが発表されますが、男女の格差は依然としてある。それでも、女性は懸命に頑張ってきたおかげて、少しずつ社会でやっていけるようになっている。今、頼りになるのは、明らかに女性ですよ。そんなの、ジブリの中を見渡すだけでも分かります。ただ、やっぱり孤独だと思うんです。そんな女性たちにこそ観てほしい。作品にも登場しますが、女性って人形や犬が好きでしょ。押井さんって、そういう気持ちがよく分かるんでしょうね。本人もおばさんみたいな顔していますから。これ、絶対書いて下さいね(笑)。

――鈴木さんから見た押井監督は。

鈴木 一言で言えば理想主義者。彼は、67年の羽田闘争の時に学生運動に興味を持ったことがあるんですが、まだ高校生でした。停学になるリスクを背負って校内でビラを配りながら、大学生に対して不満を持つようになる。「あなたたちは自由なのにそんなものか」と。そういった経験が、彼を理想主義者にしたのではないでしょうか。「イノセンス」では、その理想主義者が、初めてなりふり構わず己をさらけ出しています。それでいて面白い。一級の娯楽作品となっていることに、僕は素直に驚きました。だから一緒にやっているんです。

――I.Gの石川社長は、鈴木さんの参加を「戦い」だと言っていました。

鈴木 彼は激情家ですから。よく誤解されますが、僕はいつだって沈着冷静なんですよ。僕が言えることがあるとすれば、作品が素晴らしい以上、もし失敗したら自分の責任だということだけです。

 鈴木プロデューサーは、声が大きいことで知られている。しかし、この日はインタビューの間中、ずっと小声のままだった。本人は否定するだろうが、おそらく、疲労のためだろう。彼の「イノセンス」に対する覚悟を感じるには、その声で十分だった。過去の経験だけで、興行が成功するほど甘くないことを、この男は、身を持って知っているのだ。それでも、彼は挑む。その挑戦を、見守りたいと思う。


「イノセンス」押井守監督作品

 現実と虚構の境目を鋭く描く押井守監督の最新作。
 主人公バトーは、生きた人形(サイボーグ)。腕も脚も、その身体のすべてが造り物で、残されているのはわずかな脳と、ひとりの女性の記憶だけ。人間と機械の境界線が限りなく曖昧になった時代、ヒトは、人であることを忘れた。それでも、自分が人間でありたいと求めた男の、孤独な“魂(ゴースト)の乱交”を押井守が描く。
 前作「アヴァロン」以来、4年ぶりの新作となる。来年春に公開予定。プロデューサーに鈴木敏夫を迎え、スタジオジブリが製作協力する。

(c) 2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD
2003年11月4日  読売新聞)
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