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“自分から入っていく”映画「キリクと魔女」

高畑 勲(たかはた いさお)さん


高畑 勲(たかはた いさお)

1935年生まれ。東京大学文学部仏文学科卒業後、数々のアニメーション制作に携わる。監督作品に「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」「ホーホケキョ となりの山田くん」など

 「朝は苦手」と聞いていた高畑勲監督が、スタジオジブリの会議室に現れたのは午後3時すぎだった。ジブリはどの部屋も窓がとても大きく、外の天気がわずかでも変わり始めるとすぐに分かる。名刺を渡されることが苦手そうな監督の表情もしっかり見えた。

 日本語版翻訳・演出をしたフランスの長編アニメーション「キリクと魔女」(今夏公開、ミッシェル・オスロ監督)と、14日から東京都現代美術館で開催される「スタジオジブリ立体造型物展」について、高畑監督に聞いた。(依田謙一)

――「キリク」に出会ったきっかけは。

高畑 日仏学院(東京・飯田橋)でオスロ監督の作品を上映した際に、本人が来日して、僕を対談相手に指名してくれたんです。それまで彼の作品を観たことがなかったので、あわてて彼の作品を取り寄せてもらったら、「これはすごい」と。日本のアニメーションがやっていないことをやっていることに驚かされた。よく聞けば、1998年に広島国際アニメーションフェスティバルで上映されていたにもかかわらず、どの配給会社も公開しようとしなかった作品だそうで、何とか公開できないかと思い立ちました。

――日本のアニメーションがやっていないこととは。

高畑 日本の作品は、作品の中に人を連れ込んであれよあれよという間に興奮させるタイプが多い。僕は、そういう観客が受身になる方法に対し、ずっと疑問に思っていました。自分の作品では外から対象化することを心がけて作っているつもりですが、「キリク」は、この点で実に優れています。絵が影絵のように平面的であることで、登場人物を客観視できる。作品を観ながらものを考えることが可能なり、観客が能動的になります。連れていかれるのではなく、自分から入っていくんですね。

――なぜ日本では公開されずにいたのでしょう。


高畑 日本はジブリをはじめとした国産アニメーションが強すぎて、公開しても「当たらないんじゃないか」という先入観があったのではないでしょうか。でも、それはおかしいと思います。優れたものは、固定観念にとらわれず紹介されなければなりません。

――「なぜ? どうして?」と問いかける主人公キリクが印象的です。

高畑 彼は自分の生まれた村に呪いをかけている魔女カラバについて、「どうして意地悪なの?」と常に立ち止まって考えます。時にはカラバ本人にも尋ねながら、ひとつひとつ解明していくわけです。これは現実の生活でも大切なこと。最近は物事に対して原因を考えるというという視点が薄れているように感じます。映画のなかでは村びとたちがそういう描かれ方をしますが、現代の私達の似姿ではないでしょうか。

――同じくアフリカを舞台にした映画に「ライオンキング」(94年)があります。


高畑 僕にはだめでした。動物を擬人化をするという昔ながらの寓話的な手法では限界があります。ライオンは百獣の王で、ハイエナは卑怯だという描き方がそもそもつまらない。だって、物事はそんなに単純じゃないでしょう? 「キリク」では、カラバの存在について真面目に答えを見つけようとしますが、こういう努力はとても大切だと思います。同時多発テロの問題でも同じことが言えるのではないでしょうか。単純な善玉悪玉を作るのではなく「なぜ、テロが起きたのか」ということをしっかり考えないと、何も解決しないはずなんです。この作品はそういうことも考えさせてくれます。(次ページへ続く)


-スタジオジブリ第1回洋画アニメーション提供作品-

「キリクと魔女」ミッシェル・オスロ監督

 魔女カラバの呪いにかけられた村に住む男の子・キリクは、カラバが意地悪をする理由を知ろうと、賢者が住む山へ旅に出る……。日本語版の翻訳と演出は高畑勲。

(c)Les Armateurs/Odec Kid Cartoons/France 3 cinema/Studio O/RTBF/Monipoly/TEF/Exposure

『キリクと魔女』公式ページ
2003年6月2日  読売新聞)
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