ジェシー・ジェームズの暗殺Happy New Year! 皆さん、明けましておめでとうございます。本年も「ヘザーの映画館」をどうぞ宜しくお願いいたします。さて2008年最初にご紹介するお勧めは、ブラッド・ピットの最新作「ジェシー・ジェームズの暗殺」です。 この映画が気に入った点は、いわゆる star vehicle ではないところです。vehicle は「乗り物」という意味ですが、star vehicle とは主演俳優の長所を引き立たせるだけの作品を意味します。アメリカ史上、最も有名な無法者ジェシー・ジェームズを演じるピットは確かにカッコイイの一言。しかしこの映画のプロデューサーも務めたピットをはじめ、制作者は彼のそのカッコよさとカリスマ性を逆手にとって現代のセレブリティー文化を批判しているようにも取れます。 特に、大したことでもない「手柄」でマスコミに大きく扱われ、有名になる風潮を批判しているようで、「(大した才能もない)アイドルを必要以上に騒ぎ立て崇拝する傾向は、結果的にアイドルとファンの両方を腐敗させることになる」というメッセージを込めているようです。 この映画の舞台である1881年、ジェシー・ジェームズは34歳です。それよりかなり前から犯罪人生を送っている彼ですが、当時流行っていた dime novels(メロドラマ的に書かれた三文小説)などのおかげで、ロビン・フッドのようなヒーローとして知られていました。この映画の最初の方で、ジェシーと彼の仲間が夜中の森で列車強盗をはたらくシーンが登場します。列車の煙に包まれながら線路に立つジェシーの姿は、すでに彼がどれほど伝説的な存在になっているかを強力に伝える映像です。 しかしすぐにこの幻想を崩れてしまいます。ジェシーがある若い列車乗務員に「ひざまずけ」と命令しますが、乗務員は従いません。ビビってジェシーの恐ろしさを皆の前で証明するというシナリオは壊され、これにキレたジェシーは彼を殴り倒します。やはりジェシーはただの悪党なのです。こうしてストーリーが進めば進むほどジェシー本人も自らの実像を痛感せざるを得なくなってきます。 「オーシャンズ 11、12、13」でピットと共演しているケイシー・アフレック(ベン・アフレックの弟)が今回ジェシーの仲間、そしてだれよりも彼を崇めている男ロバート・フォードを演じています。評論家からは a star-making performance(スターになる演技)だと絶賛され、私もアカデミー賞にノミネートにされるべきだと確信しています。しかし何はともあれ、まずはブラッド・ピットの演技とこの作品全体の構成の素晴しさを是非注目してほしいと思います。 音楽も控えめに使われており、最も緊迫したシーンにはまったくありません。これは本当にうれしいことです。かつて黒澤明監督は大事なシーンほど音楽を抑えたようですが、私も大賛成です。派手な音楽で観客の感情を操作する映画は結局印象に残りません。カナダで撮影された広大な平原は息をのむほどに美しく、追手から身を隠すところもないその場所は、ジェシーたちの深い孤独をどんなセリフよりもまた音楽よりも雄弁に、そして感動的に表現してくれています。 実はわざとらしいセリフはかなり登場します。しかしそれは、ジェシーたちの英雄気取りのうぬぼれを描くために制作者が意図的に入れているのではないでしょうか。この映画のナレーションと、特にフォードのセリフが当時の dime novel の文体を思わせます。 ピット本人もその要素を大切に思っていたようです。この作品はある小説の映画化で、原題も dime novel のようなタイトルです -- The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford(臆病者ロバート・フォードによるジェシー・ジェームズの暗殺)。長くて一昔前の感じがしますが、先日読んだ監督インタビューによると、ピットはわざわざ映画会社との契約で「原題を変えてはいけない」と定めてもらったそうです。 西部劇なら必ずといっていいほど打ち合いのシーンが登場しますね。これにちなんで今回は shoot と shot を使った表現をご紹介しましょう。 shotgun weddingshotgun はもともと「散弾銃」という意味ですが、shotgun wedding、あるいは shotgun marriage と言うと、「できちゃった婚」という意味になります。由来は昔、娘を妊娠させた男に父親が散弾銃を向け、結婚を強要したことにあります(笑)。 今や日本でもアメリカでも、この「できちゃった婚」は昔ほど非難されなくなりました。そのためこの表現は冗談っぽく使われることがよくあります。例えばもし、「私妊娠したの。これから結婚する」と友だちから言われたら、私は「できちゃった結婚 -- おめでとう!」と喜ぶでしょう。英語では、 A shotgun wedding -- congratulations! この場合相手を責めていると誤解されないように、笑いながら明るい口調で言った方がいいでしょう。 このshotgun wedding / marriage は結婚だけでなく、そこから派生して「必要に迫られて行う妥協」とか、「強引な提携」という意味で使われることもあります。例えば、政治的理由で手を組む政治家については、 It's a shotgun marriage for political reasons. have a shot「実現する可能性がある」という意味です。例えば、ある野球チームがシリーズ優勝する可能性があると思った場合、英語で次のように言えます。 I think they have a shot at the championship. この表現に「試みる」「やってみる」という意味もありますが、少しフォーマルな感じがします。もっとカジュアルに言いたい場合、take a shot あるいは give a shot の方がいいでしょう。 海外旅行が毎年の恒例で、今年は東ヨーロッパを選んだ人を想像してみましょう。初めて場所で、「どんなところか、とりあえず気に入るかどうか見てみよう」という気持ちで選んだ場合、英語で次のように言えるでしょう。 This year, I'm going to give Eastern Europe a shot. これは私事ですが、数年前ハワイに行ったとき、生まれて初めてサーフィンのレッスンを受けました。英語で言うと、 ちなみに、私はボードの上で立ち上がることに2回成功しました。 shoot for「目指す」、「ある目標に向かって頑張る」という意味です。 「新年の決意」として「XXX円お金を貯める」というものきっと多いはずですね。ある人は「100万円を目標にしている」と決めた場合、英語では次のように言います。 I'm shooting for 1 million yen. like a shot銃から飛び出た弾丸のように、「素早く、すぐに」という意味です。例えば残業はせず、毎日午後6時になるとすぐに帰宅する人については英語で、 He's out the door like a shot at 6 p.m. shoot oneself in the foot自分の足を打ってしまうイメージで、「墓穴を掘る、自ら災いを招く」という意味です。 これから会社で大事なプレゼンテーションをする人を想像してみましょう。ところが順部不足から上手く説明ができず、しかも上司の質問に適切な返答ができませんでした。恐らく彼は「自業自得。しっかり準備しないから自滅したんだ」と反省するでしょう。英語では、 I shot myself in the foot by not being prepared. shot in the arm「元気を回復させるもの」という意味ですが、この表現の場合、銃で腕に打たれるのではなく、カンフル剤を注射されるイメージです。 ちょうどこの原稿を書いていたところ、米大統領選のニューハンプシャー州予備選の結果が発表されました。皆さんすでにご存知でしょうが、民主党の候補者ヒラリー・クリントンがライバルのバラク・オバマを破って勝利しました。3日前、初戦のアイオワ州で3位に終わったクリントンにとって、この当選は力強い追い風になってくれると感じたことでしょう。
(2008年1月11日 読売新聞)
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