スター・トレック英語の romance はすでに日本語になっていますが、では bromance という言葉はご存知でしょうか? romance に bro(兄弟、相棒)を付け加えたもので、男友達のプラトニックな親交を意味します。映画でいうなら…そう、「明日に向って撃て!」のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードがまさにそんな関係です。そして、今回のお勧め「スター・トレック」が描くbromance は、テレビから生まれた有名な「相棒」、ジェームズ・カークとミスター・スポックです。 「ちょっと待て!キャプテン・カークだろう!」と反論されるファンの方も当然いらっしゃるでしょう。実を言うと、この映画では彼を最初からキャプテンと呼ぶわけにはちょっといかないんです。これまで10本ものスター・トレック映画が公開されていますが、今回の作品はその続編ではありません。1966年に初めて創作されたオリジナルTV番組をベースに、「LOST」や「クローバーフィールド / HAKAISHA」のJ.J.エイブラムス監督が再構築したバージョンなのです。従ってカークの生まれる日から始まります。 カークの父親ジョージは未来の地球を含む “惑星連邦軍艦隊” の戦艦USSケルヴィンの将校です。ある日、ケルヴィンが異様な大型艦に襲われ、キャプテンを失います。最初から最後までワクワクする映像であふれている「スター・トレック」ですが、最高なのはやっぱりこの敵の登場シーンでしょう -- 巨大なブラック・ホールから出てくる大型艦は尖がった真っ黒な金属から造られたもので、まるで悪魔の爪のように見えます。しかもケルヴィンの10倍ほどの巨大さです。こんな恐ろしい敵が激しく燃える太陽をバックに迫ってくる光景は圧巻です。 大型艦の桁外れの攻撃力にまったく歯が立たず、ケルヴィンの代理キャプテンとなったジョージはクルーを避難させることを決意します。しかしその中には、分娩中の自分の妻がいました。それでもジョージは独り艦に残り、逃げていく小型艇に敵を寄せ付けないように最後まで戦います。生まれてくる息子の顔を見ることは一度もありませんでした。 やがてカークも連邦艦隊に入隊します。飛び抜けた能力を持ちながら、かなり反抗的なのも事実で、艦隊学校の教官スポックと衝突します。一見して正反対の2人です。向こう見ずで感性のおもむくままというタイプのカークとは対照的に、スポックは常に感情を抑え、何よりも論理を重視します。それは彼の生まれ故郷、バルカン星の文化だからです。しかし、スポックはバルカン人の父と、地球人の母の間に生まれたハーフです。いつも2つの世界の板挟みになっているスポック、そして男親から人生のアドバイスを何一つ受けずに育ったカーク。まだ自分本来のアイデンティティがよく分からずにいる点は共通しています。 ストーリーが進むに連れ、やがて2人は自分の欠点と相手の長所を認めるようになり、徐々に友情と信頼は深められていきます。そのきっかけとなるのが、あの謎の大型艦です。ある日突如として現れ、カークやスポックは連邦艦隊の最新戦艦USSエンタープライズで迎え撃つことになります。 カーク役のクリス・パインと、スポックを演じるザッカリー・クイントはこの映画で世界的なスターになるに違いありません。特にクイント(これまで彼が一番注目されているのは、人気テレビシリーズ「HEROES / ヒーローズ」で殺人鬼のサイラーの役です)。俳優としては、スポック役はかなり窮屈でしょう – 常に感情を押し殺し、無駄な動きはほとんどしません。しかし、クイントは目つきや声のトーンを微妙に変えることで、スポックの中でくすぶっているさまざまな感情をはっきりと伝えてくれています。しかもその中にはユーモア、熱望、怒り、そして激しい愛情もあります…。 恋愛話で、異性の「ギャップ」に惚れるなんてよく言われますが、まさにこれは最高にセクシーなスポックです。この映画を見てから、私はすぐにクイントの写真を自分のコンピューターの背景に載せました(笑)。 ドラマを映画化するとつまらなくなるのはよくあることですが、しかし今回の作品は見事な脚本にしっかりと支えられていると言えます。ハラハラドキドキのアクションシーンで素早くストーリーを進めながらも、それぞれの登場人物を丁寧に描いています。操縦士のスールーや、軍医のマッコイなど、オリジナルシリーズのキャラクターが全員登場するのはもちろん、それぞれが活躍する場面もきちんと与えられています。決闘シーンで目立つキャラクターがいれば、ユーモアで印象に残る人物もいます。例えば「スター・トレック」の時代は、今とは比べ物にならないほど様々な技術が発達していますが、残念ながら注射は彼らの時代でも痛いみたいです...。(笑)。さてどういう意味でしょう?それは見てのお楽しみです。 ごく小さな役にもきちんと配慮が行き届いています。例えば、「シザーハンズ」などのウィノナ・ライダーがスポックの母親アマンダとして登場していますが、画面に出ている時間は数分しかありません。しかしそのわずかの間に、彼女の母ならではの深い愛情と辛抱強さが見事に表現されています。 ただ残念ながら、彼女に関するスポックのセリフの和訳が違っています。彼女はスポックを語る上で非常に重要な人物であり、また多くの熱烈なファンの方々のためにも、敢えて訂正させていただきます。基本的にバルカン人は自分の感情を抑えるのですが、ある儀式によってその感情を完全に排除する者もいます。途中スポックが「もし僕がそうするとしても、it is not a reflection on you 」とアマンダに言うところがあります。字幕ではこの英語の部分が「母への態度は変わらないだろうが」と訳されています。しかし正しい意味は、「感情を排除するのは母親に対する批判ではない」、つまり「あてつけではない」と言っているのです。地球人の母親を持つスポック。その血を半分受け継いでいるがゆえに悩む、彼ならではのセリフなのです。 ライダーのほかに、私はスポックの父親役のキャスティングにも驚かされました – あの「炎のランナー」で主人公のユダヤ系短距離選手を演じたベン・クロスです(相変わらず威厳に満ちています)。実は、彼のセリフも1つ訳が間違っています。これも重要な個所なので、これもあえて訂正させてください...。途中、スポックは父親に向かって「自分の復しゅう心を抑えられない」と言うシーンがあります。そして父親の返事は "Don't try."「復しゅうはするな」と訳されています。しかし正しい意味は「(復しゅうしたい気持ちを)抑えようとするな」です。さて、スポックは一体どちらの道を選ぶのでしょうか??! カークとスポックは共に自分本来の居場所を探しています – Kirk and Spock are both searching for their place in the world. これにちなんで、今回は place を使った表現をご紹介しましょう。 out of placeこの表現は日本語とほぼ同じ、「場違い」という意味です。例えば、ある男性がパーティーに行きますが、ほかのゲストは自分よりはるかに経済や政治に詳しかったとしましょう。だれともうまく会話ができなかったその人は、後で自分の気持ちを次の英語で表現できます。 I felt out of place at the party. 「ある場にふさわしくない」という意味でも使われます。例えば、子供の誕生日パーティーで誰か大人が卑猥な冗談を言ったりしたら、周りから「場をわきまえて」と叱れるでしょう。英語では、 Dirty jokes are out of place at a child's party. go places「出世する、成功する」という意味です。例えば、首席で卒業し、野心に燃えるある学生のことを周囲は「彼なら、間違いなく偉くなるだろう」と予想しています。英語では、 With his intelligence and ambition, he should go places. pride of place「最高位」、「一番いい場所」のことです。この場所にあるものは特別な価値があり、そこに置かれたものはとても大切にされています。例えば、私のリビングに大きな棚があり、その真ん中に置いているのは夫と私の結婚式の写真です。 A wedding picture has pride of place in my living room. put oneself in someone's place「人の立場、身になって考える」場合に使われます。例えば、新入社員が初めて部長の前でプレゼンテーションします。一生懸命なのですが、内容も話し方もかなりギクシャクしていて上手く伝わりません。 終ったあと「ひどかったな」とある同僚がもらします。しかしもう1人は「彼の立場になってみろよ。誰だって緊張するさ」と彼をかばいます。英語では、 put oneself in someone's shoes というバリエーションもあります。例えば、
(2009年5月22日 読売新聞)
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