[評]ムサシ(ホリプロ)
豪華な話題作 期待通り
宮本武蔵と佐々木小次郎。二人の剣豪を演じるのは人気若手俳優、藤原竜也と小栗旬。井上ひさしが20年以上、構想を温めてきた新作を演出するのは蜷川幸雄。今年の演劇界有数の話題作は豪華な出演者やスタッフの力がうまくかみ合い、期待通りの力作となった。
巌流島の決闘で武蔵(藤原)に敗れた小次郎(小栗)が実は生きていた、という奇抜な発端から物語は始まる。武蔵の師、沢庵(たくあん)(辻萬長(かずなが))や将軍家の兵法指南役、柳生宗矩(むねのり)(吉田鋼太郎)らと共に寺開きに参加した武蔵の前に小次郎が現れ、3日後の決闘やり直しが決まる。
一触即発の二人を何とか思いとどまらせようとする沢庵や宗矩、寺の檀家(だんか)(白石加代子、鈴木杏)たち。男5人が互いの脚を縛って絡み合ったり、剣術のすり足がいつの間にか群舞に変わったり。抱腹絶倒の場面を織り交ぜながらも、報復の連鎖、劇中のセリフで言えば恨みの鎖をどう断ち切るかというテーマが次第に浮かび上がる。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」という井上の劇作術と、蜷川の演出がさえわたる。
井上作品に欠かせない音楽劇の要素は今回、時代劇にふさわしく能楽が担う。宗矩が能好きで度々、謡を披露するだけでなく、予想外のラストにも能の影響が色濃い。恨みの鎖を断つのは演劇の力。井上らしいメッセージが力強く響く。
蜷川は近年、初期の井上作品に取り組み、わい雑なまでのパワーを自らの活力にしようとしてきた。井上も、蜷川による上演を見て大いに刺激を受けたに違いない。井上74歳、蜷川73歳とは思えぬ若さが舞台全体にみなぎっている。(多葉田聡)
――4月19日まで、彩の国さいたま芸術劇場。
(2009年3月11日 読売新聞)
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