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「食ショック09」スタート、テーマは「農地崩壊」

 2008年の一年間に渡って連載し、ご好評をいただいた「食ショック」が、再開を望む読者の声に押されて帰ってきました。6月30日の読売新聞朝刊1面から、「食ショック09」が始まります。
 最初のテーマは「農地の崩壊」。日本の「食」を支える農地はいま、どんどん減っています。農業の現場で今、何が起きているのか、消える農地を食い止める手だてはないのか、再結成された取材班が、日本と世界の各地からリポートします。

農地崩壊

農地守ることと地域の発展 両立の手だては

7月3日 
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企業誘致を促す看板が並ぶ農地。利用は決まらず、牧草地となっている
(長崎県佐世保市で)

 「大型店の進出歓迎」「この地に企業誘致」――。長崎県佐世保市相浦地区の農地に並ぶ看板だ。「行けば看板が、たくさん立っているからすぐ分かる」と教えられたとおり、市中心部から車で10分余り走ったところで、目に飛び込んできた。1文字が1メートル四方もありそうな大きな看板は、ほかにも、「若者の雇用確保」「市北西部の活性化」など計7本が掲げられている。

 佐世保湾に面し、背後に山間部が迫る佐世保市では、「平地でこれだけまとまった農地は数えるほど」(市内の農家)という。

 大型商業施設や、工場などに転用されやすい農地の特徴がある。「都市部郊外で、交通アクセスが良い平地」だ。相浦地区の農地が面しているのは、片側2車線の幹線道路。特徴にぴったり当てはまる。

 さらに、道路を挟んで農地と反対側にあるのは、佐世保野球場と佐世保市総合グラウンド。長崎県立大学佐世保校もすぐ近くだ。集客面だけを考えても立地環境は抜群。大型スーパーが進出を目指したのも当然だと思える好条件がそろっている。

 この農地の存在は、佐世保市民に良く知られている。2005年に表面化した大型スーパーの立地計画は、市民を賛成派と反対派に二分する対立に発展したからだ。人口約26万人の佐世保市で、賛成派が約11万人分、反対派が約5万5000人分、それぞれ署名を集めるほどの激しい対立だったという。

 ただ、焦点は、農地を守るかどうかではなかった。06年3月当時の佐世保市長が農地の転用を認めなかったのは、「大型スーパ進出で影響を受ける市中心部の商店街に配慮したから」とある市民は解説してくれた。

 今、佐世保市には、地元企業の破綻などで深刻な雇用不安が広がっている。もし、雇用確保を掲げ、企業が相浦地区のこの農地に進出を表明したら、市民の多くは歓迎するだろう。

 「地域の発展と都市近郊の農地を守ることを両立する手だてがあるのか」。車が途切れなく行き交う幹線道路を背に農地を眺めながら、こんな疑問が頭を離れなくなった。(経済部・宮崎誠)

少人数で開墾、熱意あふれる現場

7月2日 
雑木が生い茂り、雑草が伸びた耕作放棄地で開墾作業を行う永堀社長ら(埼玉県上尾市で)

 撮影に訪れたのは埼玉県上尾市。

 株式会社「ナガホリ」は荒れた土地を農地として利用できるように新たに開墾するビジネスを行っている。実際にその作業現場を訪れた。住宅もまばらな上尾市郊外の現場は、雑木が生い茂り、雑草が背丈まで伸びている手付かずの土地。

 この日は小雨が降り、足元の赤土がぬかるんでいた。作業靴にヘルメット姿の永堀吉彦社長は、林の中にずんずんと分け入って、チェーンソーで直径50センチを超す大木を切り倒した。社員の一人はパワーショベルを操って、数メートルの深さまで土を掘り返していた。小松菜などの野菜を栽培する農地を作るのが狙いだと言う。

 こんなに広い土地を少人数で切り開くのか?作業の大変さが思いやられた。熱意無しではとても続かない仕事だ。

 「10年もこんな作業を続けてるんだよ」。日焼けした顔をほころばせた永堀社長の手には、泥汚れが染込み、ごつごつとたくましかった。

 現場の取材後、事務所に戻り永堀社長と話した。

開墾事業について説明する永堀社長

 「開墾するのに車が入りにくい、土が悪いなど条件が悪いところもある」「さいたま市、上尾市、桶川市の3市にまたがって活動。5月からは東松山市と滑川町へと活動範囲を広めている」

 農地を開拓する作業は簡単ではないが、永堀社長のガッツあふれる言葉は苦労を感じさせない。

 「活動範囲が広がっても重機の移動は大変ではない」「埼玉県に農地活用推進課がある。(ナガホリが)東松山農林振興センターと農業委員会とタイアップして、耕作放棄地を畑地に復旧し、野菜を栽培する。埼玉県がそのモデルになる」

 「まあ、みてろ」。そう言って浮かべた笑みが印象的だった。(映像部・高野 康一)

国営造成農地のいま 現場を歩く…鳥取・大山山麓

6月30日 
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舗装道路の先に見える、造成農地。雑草や雑木が茂って畑の姿を現していない(鳥取県大山町)

 農地をテーマに始まった「食ショック09」。経済部の栗原守記者が、鳥取県大山山麓に1970年代から国が切り開いた農地に飛んだ。造成開始から30年以上立った現場で見たものは……。

 6月半ば、鳥取県西部の秀峰大山のふもとにある大山町を訪れた。日本海に面し、県第2の都市、米子市に隣接している農業地域で、人口は1万8000人余り。最近は西日本有数のブロッコリーの生産地として知られている。海からは潮風が吹き寄せ、巨大な風力発電施設が所々にそびえ立っている。

 私は大山町職員の案内で、長田地区の国営農地開発の造成地を訪れた。同町役場大山支所から自動車で15分程度走っただろうか、途中うっそうとした林を抜けて、たどり着いた造成地は、“ただの山"だった。山とは言っても高さ十数メートルの丘のようで、うっそうとした雑草や雑木が茂っていた。わずかに、造成されたときに切り開かれた「段」とみられる凹凸らしいものが確認できたが、それ以外はどこにでもあるような、人気のない山だった。

 何の作物が植えられていたのか、色々と聞いたが、かつては、ナシ園だったという人もいれば、サツマイモ畑だったという人もいて、約30年前のことに、確かな記憶をもつ人さえいないようだった。ただ、造成後数年で畑は放棄されて、荒れ放題になってしまったらしい。

 地元の人は口をそろえて「後継者がいない」「野菜を植えてももうからない」と話す。耕作放棄地の近くでナシ園で農作業をしていた女性(75)に、歩み寄って話を聞くと、「1年間作物を植えないと、畑はすぐに荒れてしまうものだ。イノシシも現れるなど、手入れは大変だ。若い人はなかなかやりたがらず、私もあと5〜6年で引退だ」と、笑みを浮かべて語ってくれた。

 農地造成は1972年に始まった。大山南麓にダムを建設し、大山の西側から北にかけて約40キロ・メートルの幹線水路を整備し、所々に山を切り開いて農地を増やした。長田地区は昭和50〜60年(1975〜85年)に造成された。「豊かな農村社会」が期待され、活気のある地域産業の発展が実現するはずだった。

 大山山麓は、ブロッコリーに加え、ネギ、シバ、牧草などの生産も盛んな地域で、すべての農業が疲弊している訳ではない。ただ、531億円の事業費と30年の年月をかけて、ダムと用水路を整備したにもかかわらず、活気のある農業地域が出現していないのは事実だ。国は2011年度までに、耕作放棄地の解消を目指すが、あと2年あまりでそれが達成できないことは、目の前の耕作放棄地や高齢化した農家を見れば、あまりにも明白だった。

 今後も鳥取県などが中心となって、幹線水路からさらに支線水路を伸ばし、農業用水を行き渡らせる計画だ。しかし、一方の農家は「農業の展望が見えないから、水は要らない」との声が出ていて、「思うように用水の利用が進んでいない」(鳥取県西部総合事務所)という。

 都市に住んでいると、「農業は雇用の受け皿になる」「食品の安心を守るため国産農産物は必要」などと簡単に語ってしまいがちだ。しかし厳しい課題を抱えた農地を目の前にして、その複雑なパズルを一つ一つほどいていくことの難しさを感じさせられた。

「農業ジャーナリスト賞」授賞

6月30日 
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授賞式であいさつする齋藤デスク

 農林水産業や食料問題などに関する優れた報道に贈られる、第24回「農業ジャーナリスト賞」に、2008年の連載「食ショック」が選ばれました。経済、社会、生活情報、地方、国際部など取材部の総力を結集し、日本の食料自給率や食の安全など、食を巡る様々な問題に切り込んだ取材力に高い評価が与えられました。

 「農業ジャーナリスト賞」は、農業関係の報道・出版に携わるジャーナリスト、研究者が加盟する「農政ジャーナリストの会」が1986年に創立30周年事業として創設しました。授賞式では「国内外、生産者と消費者、都市と地域にまんべんなく視点を当てた多角的な中身で、全国紙ならではの取り組み」とお褒めの言葉をいただき、特に、連載の中に読者の反響特集や記者の体験記などを盛り込んだことに対しては、「一般の読者に分かりやすく伝えようとする意欲が非常に感じられた作品だった」と賛辞が贈られました。

 6月1日に日本プレスセンタービルで行われた授賞式では、取材班を代表して「鬼デスク」こと、経済部の斎藤孝光デスクが「今後も消費者には農業現場で起こっていること、生産者には消費者がどのような思いで食に向き合っているのかをそれぞれ伝ていきたい」とあいさつしました。

特集 写真特集
「食ショック09」紙面連載一覧
「テクノロジーの表裏」
(1面、社会面)
1) 人工品 気づかず口に(12月9日)
2)その香り 本物ですか(12月10日)
3)魚も野菜も「旬」消える(12月11日)
4)「ワギュー」実は豪州産(12月12日)
5)「エコナ」公表の苦悩(12月13日)
食ショック09:
「農地崩壊」

食ショック08:
第1部:二階堂記者の「完全自給食」体験記
第2部:「揺らぐ安全」
第3部:「飽食のコスト」
第4部:「変わる文化と習慣」
過去の紙面掲載日

関連リンク:
農水省・食料自給率の部屋
JA・全国農業協同組合中央会
食と地域を考えるフォーラム

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