ホテルの“資源”再利用「まぜればゴミ、分ければ資源」――札幌市中心部、札幌グランドホテルの支配人室長だった工藤伸哉さん(51)(現三井観光開発マーケティング部長)は、生ゴミリサイクルの導入に当たり、ホテルのスタッフにこう説明した。 7年前のこと。同ホテルではレストランなどで毎日排出される1トン近い生ゴミを焼却処理していたが、大気汚染に配慮し、札幌市に回収を依頼した。費用は1立方メートル当たり4350円。この生ゴミをリサイクルできないだろうか。 一方、生ゴミから安全で良質の肥料を作り、農産物にリサイクルしたい、と考えている人がいた。「ケイアンドケイ」社長の石川文雄さん(68)。第二の人生を「食と農業の循環システム作りに貢献したい」と、比嘉照夫・琉球大教授の指導を受けて「有用微生物群(EM)」を使った発酵技術を学び、大手建設会社を定年退職後の1997年、生ゴミを回収して肥料を作り出す事業を始めた。 退職金と借り入れで作り出した1億5800万円で、札幌郊外の石狩市新港に年間1000トンの生ゴミ処理工場を建設。そして、回収先を探し歩いた石川さんと、生ゴミ処理に苦慮していた工藤さんが出会ったのだ。 ホテルでの生ゴミ分別が始まった。夜間電力を使い、地下の処理室に集めた生ゴミを120度で加熱、乾燥させる。砂漠の土のように乾き、においも消えた生ゴミを石川さんらが回収、処理工場に運ぶ。樹脂やスプーンなどの異物を丹念に除いた生ゴミに米ぬかと、乳酸菌や酵母を主体とした微生物を加え、30日余発酵させると残留有害物質は分解し、安全な有機肥料ができる。これを約60軒の契約農家などに発送している。 「1トンの生ゴミから0・5トンの優れた肥料や飼料が作り出せます」と石川さん。グランドホテルから回収される生ゴミは現在、年間200トン余。このリサイクルで同ホテルは年間100万円以上の節減にもなった。3年前からは札幌駅前のホテル日航札幌の生ゴミも処理を引き受けている。 肥料の行く先を追って、南幌町の農家、城地英紀さん(46)を訪ねた。開拓農家の4代目。13ヘクタールの水田と、トマト、ナス、トウモロコシなどを生産している。「春先にこの肥料をまいておくだけで、積雪の下で硬くなった水田の土が十分に軟らかくなる。土壌の状態で肥料の威力がわかります」 城地さんは農作物の3分の1を、グランドホテルなどに納入。レストランなどの食材になる。残りは大半、スーパーや契約消費者への直送だ。「安心して食べられるものを送り出したい、多少高価でも消費者はその努力を受け止めてくれる、こうした信頼によって、生ゴミリサイクルは輪が閉じるのです」という。 食品リサイクル法は、再生利用の目標値を「06年度までに20%」としているが、合成保存料や農薬への懸念などで、生ゴミリサイクルの普及は多難だ。十分発酵させれば農薬などは分解できるが、石川さんの工場でも不純物のきめ細かい分別などに手間がかかり、年3000万円の赤字が続いている。こうした中、北海道三笠市が昨年、エネルギーと資源の効率的な循環を目指す農水省の「バイオマスタウン構想」の推進を表明。石川方式のリサイクルシステムの導入を盛り込んだ。他の自治体からも照会が増えた。安全な食の循環への情熱は、少しずつ評価を広げている。 (2006年5月17日 読売新聞)
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