菌で発酵 廃材を燃料に大阪府堺市の臨海工業地帯。この一角で、建物解体現場の廃木材から自動車の燃料に使われるエタノール(エチルアルコール)を製造する、世界初の商業プラント建設が進んでいる。大阪府エコタウンの目玉となる施設で、面積1・5ヘクタール。大成建設や廃棄物処理の大栄環境が40億円近くを投入し、来年1月の操業を目指している。 プラントは、まるで巨大な人体のようだ。 廃材を砕く大きな口があり、胃袋で分解して糖を作り、腸で発酵させてエタノールを作る。人体と違うのは、尿や糞(ふん)を出さないこと。「ゴミゼロ」を目指しており、発酵に使えない残りかすは自家発電用の燃料になる。年間4万〜5万トンの建設廃材を処理して、1400〜4000キロ・リットルのエタノールを製造する計画だ。 エタノールは、お酒や医療用などに使われてきた。燃料として注目されるようになったきっかけは、地球温暖化問題だった。原料の植物は成長の過程で二酸化炭素を吸収するので、その分、温暖化の原因となる二酸化炭素の排出は抑制される。石油の代わりに燃焼させると、排出総量を減らすことができるのだ。 ブラジルでは、年間1500万キロ・リットル以上のエタノールが生産され、自動車燃料として普及。米国も「石油中毒」脱皮の切り札として、利用促進に躍起だ。 国内でも、総合資源エネルギー調査会が、中東石油依存の回避と、「京都議定書目標達成」の目玉として、植物から作るバイオエタノールの活用推進を提唱。石油連盟も2010年度にガソリンの20%分をエタノールから作る燃料に置き換える計画だ。 そのエタノールは現在、サトウキビやトウモロコシなど農作物から作られている。一方、国内の建設現場から出る廃材は年間500万トン。処理費をつぎ込んで焼却処理している。「都市に眠っている資源を有効活用したい」。それがプロジェクト旗振り役の金子誠二・大成建設エンジニアリング副本部長(59)らの狙いだ。 木材からアルコールを作るアイデアは古い。第2次世界大戦中にも、燃料不足を補うために、国内で開発が進められた。しかしアルコール発酵を担う酵母は、木材から作られる糖を発酵できないものが多く、その克服が世界的な課題だった。 この壁を打ち破ったのが、宮崎大学の太田一良教授(55)(応用微生物学)だった。カギは、竜舌蘭(りゅうぜつらん)の葉から作られるメキシコの酒「テキーラ」。酵母の代わりに細菌が発酵を行う、世界でも珍しい酒だ。米フロリダ大学に留学中の1990年、太田さんは、このアルコール発酵の遺伝子を組み込んだ大腸菌を開発した。 「木材から作られた糖でも平気で食べる、食いしん坊の大腸菌が、アルコール発酵に利用できるようになりました」。エタノール生産の効率は大幅に向上した。 商社が持ち込んだ、この米フロリダ大の特許に興味を持ったのは、ゼネコンでは異色の農学部出身の金子さんたちだった。「日本の森林は大きなエネルギー源。木材の利用促進にもつながる」と、商社、機械、食品メーカーなどが動きだし、国の補助も受けて巨大プラントに結びついた。 太田教授は「米国で15年以上前に開発した技術が、日本で日の目を見るのは夢のよう」と喜ぶ。 金子さんや太田教授は「将来は、地域ごとに小型プラントを作り、ワラや剪定(せんてい)材を原料に、エタノールの地産地消を実現したい」と、大腸菌に夢をかけている。 (2006年5月19日 読売新聞)
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