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安全?危険?電磁波

(5)リスクの有無より対策を

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人気のIHクッキングヒーター。調理台から約20センチの位置で33.8ミリ・ガウス(3.38μT)の値が出た(東京・西東京市で、江口聡子撮影)

 スイッチを押す。2、3分で、鍋の水がぐつぐつ沸騰し始めた。東京・西東京市の主婦(72)は、「火力は意外と強いし、使い方も簡単なの」と、台所の「IHクッキングヒーター」を操作してみせた。

 内部のコイルに電流を流し、磁力を発生させて鍋を加熱する仕組み。ほかの家電製品より強い電磁波を出す。メーカーによって異なるが、2004年度の国立環境研究所の調査では、調理器から10センチで3・9〜89μT(マイクロ・テスラ)、30センチで0・7〜11・3μTだった。

 国民生活センターには5年前から、IHクッキングヒーターに関する問い合わせが計421件寄せられた。このうち、体調不良を訴えた事例が27件。「使用後に目まいを感じ、4日間入院した」「血圧が上昇し、耳の付け根が痛くなる」などの相談があった。暮しの手帖誌が3年前、IHクッキングヒーターの電磁波を取り上げた特集は反響を呼び、特集を収録した小冊子150万部が刷られた。

 調理器から出る電磁波は、国際機関のガイドラインの100μT(50ヘルツ時)を下回る。業界団体の日本電機工業会は「健康被害の心配はない」としているが、気になるなら、長時間使わないことや、一定距離を保って使うことを助言する。

 今年度の出荷台数見込みは、8年前の8・5倍にあたる82万台。高齢者の増加に伴い、「火を使わない安全な調理器」と注目されるほか、すべてを電気でまかなう「オール電化」を電力会社が売り込んでいることも販売増に拍車をかける。

 英国では、電磁波対策をめぐり、新しい試みが始まっている。英国政府は04年11月、40団体をメンバーとする「超低周波電磁波に関する利害関係者助言グループ(SAGE)」を設置。電磁波のリスクについて、国と産業界、国民の間で情報を共有し、話し合うのがねらいで、保健省や電力会社、家電業界団体のほか、小児がん患者の会や高圧線建設反対の住民団体も加わる。

 議論の中身は、身近な電磁波をめぐる具体的な対策だ。送電線と建物の距離はどれくらい離すべきか、電磁波を減らす技術的手段はあるのか。市民団体「パワーウオッチ」のアラスデア・フィリップス代表は、「影響の有無を議論している段階ではない。どんな対策がとれるか、率直な意見交換が重要だ」と話す。

 背景には、BSE(牛海綿状脳症)問題への反省がある。英国をはじめ欧州では80年代、科学的知見が不十分なまま牛肉の安全性を強調し、健康被害を拡大させた。国が情報を一元的に管理して判断したことも事態の悪化を招いた。英健康保護局のマイケル・クラーク博士は「BSE問題以降、『リスクは全くない』と断言する科学者は一人もいなくなった」と言う。

 日本はどうあるべきか。

 WHO専門研究員の大久保千代次氏は「政府と国民がリスク情報を共有することが大事だ。身の回りのあらゆるところにリスクはある。『絶対な安全』は存在しないことに、まず気づく必要がある」と指摘する。

 国際連合大学の安井至副学長は、提言する。「電磁波は危険か安全か、という二項対立は不毛。送電線の撤去や地下埋設ばかりが対策ではない。送電線近くに子供部屋を置かないとか、電磁波との関係が指摘される小児白血病患者の治療費を電気利用者が積み立てて支援するとか、みんなで知恵を絞れば色々な対策や仕組みが考えられるはずだ」(この連載は、地方部・高倉正樹、編集委員・河野博子が担当しました)

2006年11月11日  読売新聞)
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