(3)断熱で夏涼しく冬暖か向かいの公園から吹き込む風が、2階南側の軒先に下がる風鈴を鳴らす。屋外は30度近いが、冷房はつけていない。会社員大石政裕さん(50)が東京都足立区の住宅街で家を建て替えて4年半になる。 昨年の電気・ガス代の合計は、4人家族で月平均1万2700円。「太陽熱温水器もあり、建て替え前より減った。暖房を使うことがなく、冷房も夏に2階の部屋でつけるぐらい。無理せず省エネできるところがいい」と、妻美代子さん(47)はほほえむ。 朝6時。政裕さんは、木造2階建て、延べ床面積81平方メートルの家の4部屋と地下倉庫、屋外の6か所で温度を記録する。「室内の夏と冬の温度差が年々縮まり、3年目から、16〜28度に安定した。穏やかな空気の中にいる感じです」 妻の実家近くの中古住宅を買ったのは、1996年。住んでみて、冬の寒さに閉口した。朝、目覚めると6〜7度という日もあり、建て替えを考えた。「環境に配慮した住宅を手がけている」と聞いて区内の1級建築士、善養寺幸子さんに設計してもらった。 季節ごとの温度差を縮められた秘密は、まず厚さ5センチほどの断熱材で、土台を含む建物全体を外側からすっぽり覆ったこと。そして、寝室の床下に取り付けられた24時間稼働のエアコンが、土台のコンクリートを冬は温め、夏は冷やす。コンクリートにためられた熱は、時間をかけて建物全体に伝わっていく。窓には、空気の層を2枚のガラスで挟んで断熱効果を高めた複層ガラスを使っている。 善養寺さんは「室温が同じでも壁の温度が高いと壁からの放射熱が体に伝わり、暑く感じる。室温だけでなく、壁などの温度にも注目して設計した」と断熱対策の大切さを強調する。 大石さんの家は、政府の次世代省エネ基準を満たしている。断熱がカギの同基準に合う新築住宅は、国土交通省の推計では、2005年度は30%。昨春から延べ床面積2000平方メートル以上の集合住宅に省エネ措置内容の届け出が義務づけられ、今年度は44%まで上がるとみている。 坂本雄三・東京大大学院教授(建築学)によれば、基準は冷気を遮断し、暖房の熱を逃げにくくする寒さ対策を念頭に作られた。 最近、断熱による暑さ対策を追求する試みが出てきた。土台のコンクリートが冬は温かく、夏は冷えるようにした住宅もその一つ。エアコンを使う善養寺さんの方法のほか、地域によっては夜間の冷気を取り込み、循環させて冷房をなるべく使わない住宅もある。 また、板ガラス業界は昨春から、複層ガラスをさらに進化させ、夏場の直射日光の熱を室内に入れない「エコガラス」の普及に本腰を入れる。 「家の作りやうは、夏をむねとすべし(重視すべきだ)」と吉田兼好は「徒然草」に書いた。古来、人々をうんざりさせてきた日本の夏の蒸し暑さ。地球温暖化の影響で、最高気温が30度以上の日を示す「真夏日」の日数は増え続ける。東京では1980年代の年平均38日が90年代は50日、2000〜06年は54日に。「家の作りやう」は、列島を覆う酷暑対策に、照準が移っている。 次世代省エネ基準 1980年、旧建設・通産両省が作成し、92、99年に改正された。エネルギー使用量が少なくて済み、快適で健康的な住宅を増やすのが目的。断熱材、サッシ、窓ガラスなどの種類や厚さを定めた仕様基準か、住宅から外に熱が逃げる率(設計図面から計算する)など10項目の性能基準のどちらかでみる。全国6地域で基準値は異なる。 (2007年7月26日 読売新聞)
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