(3)無農薬水田で餌場作りトキは山中の餌が少なくなると、棚田や平地の水田も餌場とした。このため、田を荒らす害鳥として嫌われた時代が長かった。しかし、新潟県佐渡市で野生復帰が視野に入るようになってからは、地元の農民たちの意識も変わりつつある。 2001年に結成された「トキの田んぼを守る会」では、18戸の農家が計8ヘクタールの規模で無農薬の米作りに取り組む。代表を務める同市新穂(にいぼ)地区の斎藤真一郎さん(46)は「トキへの関心はもちろんだが、それだけじゃない」と率直だ。「田んぼを耕さない農法だと、雑草が生えないと聞いたんさ。省力化できるならと気軽に考えて」。長男誕生の直後で、安心な米を食べさせたいとの理由もあった。 ◆ だが、待っていたのは雑草との闘い。夏には、田んぼを埋め尽くすほど生い茂った。農法を変えるといった試行錯誤を重ね、「草取りばかりしているって、周囲から笑われたかもしれない。何度もやめようと思ったよ」。 徒労感が募る中、「消費者によって支えられた」と振り返る。「守る会」では、収穫した無農薬米に「トキひかり」というブランドをつけ、通常よりいい値段で東京の市民団体の会員に直送する。草取りツアーなどで来島する会員たちとの交流を深め、「『トキの田んぼ』のお米を食べている。頑張ってね」と励まされた。 斎藤さんは「トキを利用するだけではなく、トキのために餌場を作ってあげる。持ちつ持たれつの関係なら、長続きする」と言う。 兵庫県豊岡市では、トキに先立ち、コウノトリを野生に戻している。昨夏、斎藤さんが会の仲間らと訪れると、自由に羽ばたき、水田で餌をついばんでいた。「豊岡の人たちは、自分の田んぼに舞い降りるコウノトリを受け入れたんだろう。佐渡も同じはずだ」と、放鳥を楽しみにしている。 ◆ 1981年、野生のトキが捕獲された佐渡市片野尾。金子輝雄さん(64)は除草剤をまいた翌日、オタマジャクシが腹を上にして死んで以来、「いつか除草剤をやめたい」と思っていた。5年前から、無農薬の米作りに踏み切った。 全鳥捕獲の直前、「片野尾にトキがいた証しを残したい」と、近くの空を舞う群れを撮影した。その写真をずっと大切にしている気持ちも、背中を押した。 「できるだけ多くの人に協力してもらいたい。トキは、どこが餌の多い田んぼかわからないですからね」。この集落では今年、全戸がそろって農薬を5割減らす米作りに乗り出した。 (2008年6月3日 読売新聞)
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