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    生活

    ゴーストタウンがあちこちに? 空き家が蝕む日本の未来

    不動産コンサルタント 長嶋 修
     かつて犯罪が多発したニューヨークで「割れ窓理論」がさかんに言われた。割れた窓をそのままにしておくと、それが無関心の象徴となり、犯罪が多発するというものだ。放置された空き家は、都会の「割れ窓」そのものだ。空き家率が30%を超えると治安が悪くなると言われ、コミュニティーはやがて崩壊する。人口減少が続く日本で、空き家は今後も増え続けることが予想される。今年5月に「空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策法)」が全面施行されたが、それだけでは間に合いそうにない。

    都会でも問題化する空き家

    • 放置され、解体されることになった空き家。自治体の担当者が行政代執行宣言を読み上げている
      放置され、解体されることになった空き家。自治体の担当者が行政代執行宣言を読み上げている

     最近、通勤や通学の途中で空き家を見かけたことはありませんか。家の近くに空き家があるという人もいるかもしれません。管理する人はおらず、窓は割れ、家は傾き、雑草は伸び放題。美観を損ねるだけでなく倒壊の危険すらある建物も少なくありません。

     例えば、山梨県の場合、住宅数39万8300戸に対して空き家は8万900戸と空き家率は20%を超えていますし、和歌山は18%弱です。空き家は地方だけの問題ではありません。東京都中央区の持ち家マンションの空室率は34%。持ち家マンションに限って言えば、3件に1件が空き家です。足立区では老朽化が原因で倒壊の恐れがある建物が1700件以上あります。空き家は都会の問題でもあるのです。

     私の周囲にも、空き家を抱えて処分に困っている人がたくさんいます。ある友人は、親が住んでいた実家を数年そのままにしていますが「処分すると思い出が消えてしまうようで」と言い、定期的にポストまわりの整理や建物の点検、空気の入れ替えなどのためにかつての実家まで通っているようです。

     別の友人は九州のとある地域にかつて親が住んでいた空き家を抱えていますが、いくら安くしても売れないといいます。そうこうしているうちに建物はどんどん傷み、ますます処分しづらいものになっていきます。

     私が創業した個人向けの総合不動産コンサルティング会社「さくら事務所」にも、空き家に関する相談が多数あります。相続した親族同士で、不動産を含めた財産分与で()めて先に進まないケースをはじめ、様々な理由で空き家を処分できない事情を抱えている方がいらっしゃるのです。

    住宅は大幅な供給過剰

     日本の住宅はすでに「飽和状態」をはるかに通り越し、大幅な余剰となっていることが明らかになっています。2014年7月に総務省が公表した「平成25年(13年)住宅・土地統計調査」(速報集計)によれば、我が国では、13年10月1日時点での総住宅数が6063万戸と、5年前に比べて305万戸増加した一方で、820万戸の空き家を抱えていることが分かりました。

     総住宅数に占める割合で見ると、空き家率は13.5%にも上っており、空き家数、空き家率ともに過去最高となっています。この調査は5年ごとに行われており、前回(08年)の調査時から実に64万戸の空き家が生まれました。

     ドイツでは空き家率は1%程度、イギリスでは3~4%程度です。諸外国と比べると、日本の空き家の多さ、比率の高さは突出していることが分かります。

     このような問題を抱える我が国においては、残念ながら、今後も空き家の数は増加します。しかもそのペースは、これまで以上に速くなることが予想されます。理由は大きく分けて2つあります。

     ひとつは「需要減」。国土交通省がとりまとめている「国土の長期展望」によれば、日本の総人口は50年には9515万人と、ピークだった04年と比べて 約3300万人減少し、高齢化率は約20%から約40%に倍増すると推計されています。

     もうひとつ「過剰供給」。野村総合研究所が09年に行ったシミュレーション(下の図を参照)によれば、03年度(117万戸)のペースで新築住宅を造り続けた場合、40年度の空き家率は約43%にも上ると試算されています。ペースをその半分の約59万戸に落として試算しても空き家率は約35%。約40万戸とさらに落としても約26%に達すると試算されています。

     つまり、人口が減少局面にある日本で、現在、年間90~100万戸で推移する新築着工戸数は、明らかに「造り過ぎ」なのです。

    空き家が生み出す負の連鎖

     空き家は、いわゆる「外部不経済」をもたらします。国土交通省の「土地問題に関する国民の意識調査」(09年4月)によると、日頃身近に感じる土地問題の筆頭に「空き家・空き地や閉鎖された店舗などが目立つこと」が挙げられています(41.4%)。

     放置された空き家は、「治安の低下」や「犯罪の発生」を誘発し、「防災機能低下」、雑草繁茂や病害虫の発生等の「公衆衛生の低下」、さらには「景観の悪化」や「地域イメージの低下」など、周辺住民の生活環境に悪影響を及ぼしかねません。そして、こうした外部不経済は、結果として、「住宅価値の低下」と「街の価値の低下」につながり、経済・社会問題を生み出すことになります。

     ところで、空き家を放置している所有者は、いったい、どういった意向を持っているのでしょうか。株式会社価値総合研究所の「消費者(空き家所有者、空き家利用意向者)アンケート」によれば、空き家を持つ人のうち、売却や賃貸等を検討しているのは24%に過ぎず、71%の人は特に何もせずに所有しているだけということが分かっています。その中には、空き家を管理すらせず放置しているという人も12.8%います。

     空き家は一戸建てが74.1%と大半を占めます。立地を見ると、農山漁村地域や郊外よりも市街地や市街地周辺のほうが多く、60.3%となっています。古くからの市街地や郊外で空き家が発生する傾向が高いのは、これまで人が住んでいた家が相続の問題などで適正な管理がなされなくなり、空き家になるというパターンが多いということと関係していると考えられます。

     実際のところ、空き家問題は何も地方に限ったことではありません。放置された空き家が「崩れる」「放火など犯罪の温床になる」、ひいては「街の価値を毀損(きそん)する」といった懸念が、東京23区内でも広がってきています。

     こうした事態に対し、これまで多くの自治体が空き家対策に関する条例を設け、対応にあたってきました。しかし、空き家はあくまで個人財産なので、自治体が改善を求めたり処分をしたりということには踏み込みにくい面があります。また、登記されていない空き家や、相続後に登記が行われず所有者が特定できない空き家も少なくなく、解決に向けての大きな障壁となっています。

     

     

    2015年12月18日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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