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    スポーツ

    飽和状態の市民マラソン…大会生き残りの鍵は?

    早稲田大学スポーツ科学学術院教授 原田宗彦

     東京マラソンをきっかけに広がった市民マラソンブーム。陸上競技と無縁だった老若男女がフルマラソンの完走を目指すのはもう珍しくない。地域おこしの期待を背負ったランイベントも増え、マラソン大会は飽和状態にあるとも。スポーツマーケティングが専門の早稲田大学・原田宗彦教授に、転換点を迎えたマラソン大会について寄稿してもらった。

    世界的ブーム、国内でイベント2000以上

    • 2015年2月の東京マラソンには約3万6000人が参加した
      2015年2月の東京マラソンには約3万6000人が参加した

     世界的な健康志向を背景に、マラソンが多くの国でブームになっている。日本も例外ではなく、2007年に始まった東京マラソンを機に、フルマラソンの大会が急増した。青梅マラソンのように、それ以前にも一般市民が参加できるレースはあったが、距離は10キロと30キロであり、日本陸連が認める正式なマラソンの大会ではなかった。これまでのフルマラソンの大会は、鍛え抜かれたトップアスリートだけが参加できる特別な大会であり、一般の人にとっては、レースをテレビで観戦するか、沿道で旗を振って応援する「見るスポーツ」であった。

     しかし、いまやマラソン大会は、一般の人が気軽に参加できる、垣根の低いスポーツイベントになった。2015年には、フルマラソンだけで197大会が開催され、これにハーフマラソンやファンランのイベントを加えると、2000以上のランニングイベントが開催されている。

    • 2009年のシンガポールマラソンでスタートするランナー
      2009年のシンガポールマラソンでスタートするランナー

     同様の動きは、アジアでも見られる。2010年にはわずか12であった中国のフルマラソンの大会は、2012年に33大会、そして2014年に57大会に急増した。今年開かれた上海国際マラソンでは、3万5000人の定員に12万人が応募するなど、先進国並みのマラソンブームが到来している。その一方で大会の規模も拡大しており、2002年に6225人の参加者で開催されたシンガポールマラソンは、2015年にはアジア最大級の5万人の大会に成長した。

    裾野広げるファンラン…多様な楽しさ追求

     現在のランニングブームを支えるイベントのひとつに、ファンランがある。ファンランは、フルマラソンと異なり、楽しさ(ファン:fun)を追求するテーマ性を持ったランニングイベントであり、距離も3キロから5キロ程度と短いことが多い。

     真っ白なTシャツで参加し、カラーゾーンで色の粉を浴びる「カラーラン」、光と音で彩られたコースを夜走る「エレクトリックラン」、泡にまみれて走る「バブルラン」、“給スイーツ所”や“給チョコ所”で一口スイーツやチョコレートが食べ放題の「スイーツラン」や「チョコラン」、そして追う側と追われる側に分かれてコースを走り切る「ゾンビラン」など、ファンランの種類は多様である。

     また、沿道でロックミュージックを演奏し、お祭りムードを盛り上げる「ロックンロールマラソン」も有名である。これらのマラソンの多くは、遊び心あふれるアメリカが発祥の地で、シンガポールや台湾などでも人気が高まっている。

     さらに、距離は42.195キロとマラソンと同じだが、1~10人の参加者がタスキでつなぐ「よみうりリレーマラソン」のようなユニークな大会も開かれている。最近のランニングブームを支えるのは、このような楽しさと健康づくりをセットにしたイベントであり、単調なジョッギングが苦手な人が、楽しく走るきっかけづくりに一役買っている。

    • 大井競馬場で競走馬用のダートを走るイベント(2013年)
      大井競馬場で競走馬用のダートを走るイベント(2013年)
    • 2015年のよみうりリレーマラソン
      2015年のよみうりリレーマラソン

    大会のデフレ現象…定員に満たないケースも

     日本のマラソン大会は、台風の影響が去り、秋の風景が深まる11月に集中する。2015年には、ハーフを含め約300のマラソン大会が開かれたが、その中でも11月8日の日曜日には、全国で43の大会が開かれた。その結果、人気の高い大会には応募者が集まるが、参加者集めに苦労する大会もあるなど、供給が需要を上回る「デフレ現象」が起き始めている。限られたパイを複数の大会で取り合うため、勝ち組と負け組が鮮明になり、赤字になるマラソン大会が出現するようになった。

     例えば兵庫県の「第2回神河町名水めぐりゆずマラニック(マラソンとピクニックを合わせた造語)」は、300名の参加者を募ったが、申込者はわずか90名で、実際に参加した人は73名と、予算を大幅に下回る大会となった。書き込みの数は少ないが、ネットに掲示された参加者の声を拾うと、「参加者名簿がない大会は初めて」「アップダウンが大きくてきつい」「案内板がない」といった不満の声が聞かれた一方で、満足度が高い声もあり、沿道でのホスピタリティーやコース設定など、ランナーを受け入れる地元の努力を評価する声もあった。

     

    2016年01月05日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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