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    社会

    性犯罪「再犯防止プログラム」に効果はあるのか

    大阪大学教授 藤岡淳子

    冗談や笑いも…「性犯罪再犯防止プログラム」とは

    • 自身の考えを書き出していく(写真はイメージ)
      自身の考えを書き出していく(写真はイメージ)

     ここで、プログラムとはどんなものなのか見ていこう。

     刑務所にある教室に丸く並べられた机に、8人くらいの丸刈りの男性たちが座っている。緑色や灰色の受刑服を着た彼らの年齢層は、若い人から高齢者まで幅広い。彼らは、背広や制服姿の職員たちの講義を聴いてメモをとったり、ワークブックを読み合わせしたり、課題について議論を交わしたりする。これが「性犯罪再犯防止プログラム」の1シーンだ。

     受刑者が「勉強」している姿は、一般の人たちには少し想像しにくいかもしれない。時には、かなり「自由」な、ある意味「とんでもない」と思われるような意見も出ることがあるし、冗談や笑いも出るので、垣間見た人たちからは、こんな楽しそうにさせていてよいのか、不謹慎では、といった意見や感想が出るかもしれない。

    言い訳や非難が出てもいい理由

     受刑者・犯罪者の特徴は「(うそ)・隠し事が多いこと」「勝ち・負け、上下関係にこだわって虚勢を張ること」なので、まずは正直になること、本音を話すことが重要だ。「本音トーク」が受容され共感されることで、グループの仲間としての信頼感や協働意識が生まれてくる。

     だから、犯罪の言い訳や被害者の非難なども出た方がよい。たとえば「あれは強姦ではない。相手も嫌がってなかった」「とんでもない賠償金をふっかけられた」といったものだ。罪に対する言い訳がなければそもそも犯罪などしていないので、「とんでもない」考え方やちょっとした対人関係の不満などが表明されるのは、プログラムではむしろ歓迎なのである。

     グループメンバーで「自身の性犯罪と日頃の無責任な生活のパターンを振り返って気付き、そのパターンを変えて再犯罪を防止する」という共通の目標に向けて、皆で知恵を出し合い、人の役に立ち、人に支えてもらう経験を分かち合う。

    受刑者の考え方を変えるには

     刑務所内のプログラムは、再犯低下効果が実証されているカナダのプログラムを土台としていて、再犯のリスク、認知の(ゆが)み、被害者の視点、など学習するべき内容を記載したテキストと、課題が載っているワークブックとが用意されている。学習内容と方向性の枠組みがあるので、「男性なら誰でも強姦したいと思っている」などと正直に話された「歪んだ考えや価値観」へ、グループが流されずに済む。

     例えば、どんな考え方が性犯罪の「言い訳」としてよく使われているのかをテキストで学び、ワークブックで自分が使っていた言い訳を書いて考えていく。すると、自分や他の受刑者が以前に言っていたことやトラブルが「あれ? ちょっと違っていたかも……」と感じてくることも多い。

     こちらが「正しい」、向こうが「間違っている」として相手を正そうとすると、受刑者たちはかえって意固地になって、考えを変えようとしないか、表面だけ従うふりをして変わらないことになりがちである。

     考え方のくせや人との関わり方はそれほど簡単には変わらないが、自ら気付いて修正する練習を繰り返すことで、少しずつ身についていく。普通に仕事をしていて、家族も持っていて、他の犯罪行動歴が少ないほど、考え方や生き方を修正するのは容易だ。変わろうとするきっかけと、その意欲を実現に移すための学習の機会があり、社会で待っていてくれる家族や職場、友人関係などがあれば、再犯の危険性は低下する。

    2016年01月21日 12時58分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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