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    国際

    日本を抜いた中国の科学技術力~その知られざる実像

    科学技術振興機構中国総合研究交流センター上席フェロー 馬場錬成
     目の色を変えて日本の電化製品を買いあさる中国人の「爆買い」を見て、中国の科学技術力は「まだまだ発展途上」と考える日本人が多いかもしれない。しかし、科学技術分野の研究開発に投じる国家予算の規模、最近の学術論文数、世界の大学ランキングなどを子細に分析すると、まったく違った中国像が浮かんでくる。科学技術分野で世界一をめざす「科教興国」の実像だ。日本も無関心を決め込んでは将来が危うい。一衣帯水の大国が科学技術にかける本気度と最新の成果について、中国の科学技術政策に詳しい馬場氏がリポートする。

    日本の官僚の真意とは

    • 沖村氏(前列右端)は、さる1月8日、中国政府から「国際科学技術協力賞」を序列2位で授与された。
      沖村氏(前列右端)は、さる1月8日、中国政府から「国際科学技術協力賞」を序列2位で授与された。

     「中国の科学技術は日本を抜いた」と訴えているのは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)特別顧問の沖村憲樹氏である。沖村氏は先ごろ、日中の科学技術交流推進に貢献した功績で、中国政府から「科学技術協力賞」を授与された。この賞は中国で最高の科学技術の国際叙勲であり、行政官として初めてという異例の表彰で、外国人受賞者7人のうち序列2位で授与された。

     日本の官僚の中で中国の科学技術研究現場に最も詳しい人である。筆者は2006年に沖村氏が設立したJST中国総合研究交流センターに関わってから、同氏と共に日中の科学交流を推進する仕事をしてきた。その体験から見た中国の科学技術政策と研究動向を分析して報告する。

     沖村氏が「中国は日本を抜いた」という意味は、次のような観点から語っているものだ。

     *中国の研究者の中で、世界トップクラスに躍り出てきた人が次々と出ている
     *国家をあげて科学技術政策に取り組む制度の拡大が急進している
     *研究投資額が急増しており、世界水準の巨大大学群の研究エネルギーが半端ではない
     *選択と集中で政府が研究投資する実績が着実に広がっている

     こうした現状を総合的に見ると、もはや日本を抜いて行ったと理解してもいいという意味だ。

     研究現場に人材を供給する中国の大学群、研究機関群の拡充ぶりが急激に進展している。大学の数は日本の4倍を超えており、これからも増え続ける。学生・院生の数も急増する。現在の高等教育就学率は30%(2012年)。これを2020年までに43%に引き上げる計画だ。大学の在学者数は1494万人から2158万人に膨れ上がる。

     中国の大学生の60%近くは理系専攻である。これは日本の大学の文系・理系の色分けとは、ちょうど反対になっている。中国は、建国以来一貫して、「科教興国」を国の最重要政策として掲げ、科学技術の振興、教育の充実を強力に推進してきた。それがこの10年内に実を結び、急激に拡大している。

     世界最高水準に近づく高等教育機関を目指しており、グラフで見るように研究投資を急拡大している。

     このように中国は、なんでも世界一を目指すという国家目標が明確に打ち出されていることからも、中華思想は脈々と生きていることを実感する。

    日中高等教育機関の教育経費推移

    • 注:中国の経費は、OECD購買力平価により計算されたものである。また、教育経費は公的経費と学校の収入を含む。「文部科学統計要覧」2005~2014年、「中国統計局国家統計データ」2005~2014年を基に作成
      注:中国の経費は、OECD購買力平価により計算されたものである。また、教育経費は公的経費と学校の収入を含む。「文部科学統計要覧」2005~2014年、「中国統計局国家統計データ」2005~2014年を基に作成

     また、主要国の研究開発費の総額(購買力平価換算)の推移を見てみると、中国だけがこの10年で急激に増加している。

    • 出典:文部科学省「科学技術要覧 平成27年版」
      出典:文部科学省「科学技術要覧 平成27年版」

     グラフから分かるように、中国は年平均20%あまりで増加しており、4年で倍増のスピードである。2009年に日本を抜き世界第2位になり、2013年には35兆円規模となり、日本のほぼ2倍になった。


    2016年04月18日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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