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    生活

    安全vs監視の構図を超えて~防犯カメラ社会が行きつく先

    東京大学大学院准教授 樋野公宏
     犯罪を未然に防ぐなどの狙いで設置される防犯カメラは、着実に私たちの生活に浸透してきている。日本防犯設備協会によると、防犯カメラなど「映像監視装置」の2014年度の推定売上高は前年度比約143億円増の1688億円と、3年連続で増加している。ジョージ・オーウェルが小説『1984』で描いた監視社会が別の装いで定着しつつあるわけだが、設置効果への期待が高まる一方、データの悪用やプライバシーへの配慮など、注意すべき問題点も多い。増え続ける防犯カメラ設置で、私たちはどのような社会を目指すのか。居住セキュリティーが専門の東京大学大学院の樋野公宏准教授に寄稿してもらった。

    心理的抵抗感は薄らいできたが……

    • 様々なタイプの防犯カメラが販売されている(東京都千代田区で)
      様々なタイプの防犯カメラが販売されている(東京都千代田区で)

     防犯カメラが設置された公共空間を、「安心なのでより利用したい」と思う人もいれば、「できれば利用を避けたい」と思う人もいるだろう。防犯カメラやスマートフォンの急速な普及により、撮られることへの抵抗感が小さくなったという人が多いのではないだろうか。しかし同時に、自分や家族の写真を勝手にネットに公開されたり、さらには、ストーカーや誘拐などの犯罪に悪用されたりするリスクは、かつてなく高まっている。

     私が08年3月に行ったインターネット調査(2827人回答)によると、公共空間への防犯カメラの設置を許容するかどうかは、その設置場所や設置主体によって大きく異なるということがわかった。

     自治体や警察などの公的主体による設置を想定した場合、繁華街への設置に反対する人は4%に過ぎなかったが、生活道路への設置には14%が反対した。これは、犯罪や迷惑行為が発生すると推定される確率や、プライバシー侵害に対する懸念の程度が異なることによる。

     一方、生活道路への防犯カメラ設置を想定した場合、自治体や警察などが設置主体であれば反対する人は1%にとどまった。対照的に、個人による設置については反対(37%)が賛成(28%)を上回った。これは、設置主体に対する信頼感の差に起因すると考えられる。調査から8年が経過しているが、こうした傾向に大きな変化はないだろう。

     自治体による防犯カメラ設置への補助・助成制度は当初、商店会などが対象だった。それが現在では町内会や自治会、さらにはマンション管理組合にまで拡大している。東京都は通学路への防犯カメラ設置について、小学校1校あたり最高95万円を限度として、該当する区市町村に補助している(補助率は2分の1以内)。さらに荒川区は、区内の全33公園に防犯カメラの設置を決めている。駅周辺や通学路に加え、全公園に設置範囲を広げるのは東京23区で初だという。

     このように、設置主体が増加していくとともに、設置範囲も私たちの身近な場所に迫ってきている。普及と並行して、防犯カメラの機能も進化してきた。映像はより精細になり、夜間でも撮影できるよう赤外線照明を備えたり、感度を調整できたりする機種が販売されている。

     最近では、各世帯のインターホンにも自宅前を常時録画するものがある。ちなみに1988年の東京高裁の判決では、防犯カメラは(1)犯罪発生の高度の蓋然性(2)証拠保全の必要性と緊急性(3)方法の相当性――が設置の要件とされた。判決から30年弱経過しただけなのだが、隔世の感を禁じ得ない。

     

     

    2016年05月19日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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