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    生活

    安全vs監視の構図を超えて~防犯カメラ社会が行きつく先

    東京大学大学院准教授 樋野公宏

    どう考える? 防犯カメラ活用の三つのシナリオ

    • 荒川区の公園に設置された防犯カメラ
      荒川区の公園に設置された防犯カメラ

     こうした状況を踏まえ、防犯カメラ映像の活用に関しては、三つのシナリオを考えることができる。

     一つ目は、「現状維持」である。防犯カメラの設置される範囲を広げ、数を増やしつつも、一般的な運用基準の通り、活用先はあくまで犯罪捜査に限定することである。

     最近、NTTコミュニケーションズが綜合警備保障(ALSOK)と連携して、監視精度の向上実験に成功したと発表した。具体的には深層学習(ディープ・ラーニング)を含む人工知能(AI)技術を活用し、不審者の動作検出、同一人物の推定などを行ったという。

     こうした技術革新により、犯罪者の検挙に活用される場面は増加するだろう。これは費用対効果の「費用」を維持しつつ、「効果」の向上を期待するシナリオと言える。ただし、個人による設置、映像の活用については法的な縛りが必要だと考える。

     二つ目は、飽和状態に近い防犯カメラだけでなく、よりリスクや経費の低い防犯対策にも投資を分散していくことである。これは、費用対効果の「費用」を抑えようとするシナリオである。

     先に、足立区の住宅地でのアンケート結果を紹介したが、そこで防犯カメラに対する評価を下げたのは、自分の身は自ら守るという「自助」による防犯よりも、地域住民が助け合って守る「共助」による防犯を重視するグループであった。私が防犯対策を助言した別の住宅地開発では、住民コミュニティーが形成されるまでの補完措置として防犯カメラを位置づけ、将来は撤去も含めて検討することとした。

     このように住民自らが十分な情報をもとに費用と効果をしっかりと考量し、結果として他の防犯対策を採用することがあって良い。防犯カメラ設置を契機と捉えて、自主パトロールなど一層の防犯活動に取り組む地区も少なくない。

    • マンション敷地内の防犯カメラ(写真はイメージです)
      マンション敷地内の防犯カメラ(写真はイメージです)

     三つ目は、防犯カメラの活用範囲を防犯以外にも拡大していくシナリオ。すなわち費用対効果の「効果」を高めることである。膨大な数の防犯カメラの撮影データはまさにビッグデータであり、様々な研究利用、商業利用が考えられる。しかし、個人情報流出のリスクなどの「費用」も高まるため、その可否は世論次第である。

     たとえば14年3月、JR大阪駅の駅ビルで予定されていた実験が、市民の抗議で中止に追いやられた。改札やエスカレーター、店舗などに設置された90台のカメラが撮影した顔の特徴を抽出し、同一人物を認識した位置と時間を随時記録し、人の流れを把握するという実験だった。

     実現すれば、店舗の構成や配置計画などの商業利用だけでなく、認知症などによる徘徊(はいかい)高齢者を捜索したり、人通りの少ない時空間を発見し、防犯対策に役立てたりといった、防犯カメラの本来の目的に近い活用にもつながったかもしれない。このシナリオにおいては当然、撮影された全ての人の同意を得ることは不可能であり、映像提供の要件などを定める法整備が求められるだろう。

     録画機器の普及とともに、世論は大きく変化した。既に膨大な数の防犯カメラが生活に身近なところまで広がったことを前提に、いずれのシナリオを選ぶのか、私たちは活発な議論を行ってコンセンサスを形成していく必要がある。

     

    プロフィル
    樋野公宏( ひの・きみひろ
     東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 准教授。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。博士(工学)。防犯まちづくりに加え、高齢者の安心居住支援、健康に暮らせるまちづくり、官民協働の空き家対策などを包含した「居住セキュリティー」を研究テーマに掲げる。現在、国立研究開発法人建築研究所客員研究員、警視庁建物防犯協力員、福岡県警察犯罪予防研究アドバイザー、足立区防犯専門アドバイザーなどを務める。

    2016年05月19日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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