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    社会

    「スーパーK」はなぜ人食いグマになったのか?

    NPO法人「日本ツキノワグマ研究所」理事長 米田一彦
     秋田県鹿角市の山林で、タケノコ採りの男女4人が相次いでツキノワグマに襲われ、死亡した事故は、最初の犠牲者が出てから約1か月が経過した。4人目の犠牲者が見つかった現場近くで雌グマが射殺されたが、このクマは“主犯”ではなく、現場近くで目撃された大型グマ「スーパーK」こそが、4人殺害の“主犯”だとNPO法人「日本ツキノワグマ研究所」の米田一彦理事長(68)は見ている。スーパーKはなぜ、人食いグマなってしまったのか。そして今、どこにいるのか。現地を2回にわたって調査し、ツキノワグマの生態を熟知している米田理事長が分析する。

    「食べる選択肢」に人間が加わっただけ

    • チラシを手渡し、注意を呼びかける警官
      チラシを手渡し、注意を呼びかける警官

     6月10日に4人目の犠牲者となった女性の遺体近くで、体長1メートル30、体重70キロの雌グマが射殺され、事件は収束するかと思われた。しかし、3日後の13日になって体長1メートル50、推定体重100キロの雄グマとみられる大型のクマ「スーパーK」が目撃され、一気に複数のクマによる殺人、食害(人を食べること)事件へと拡大する様相を見せている。

     秋田県の週間天気の推移から判断して、先週日曜の19日は事故発生の恐れがあると心配したが、何事もなく、安堵(あんど)した。この地域で、秋田、青森両県警が危機感を持って入山自粛を呼びかけたり、広報活動を行ったりした結果だと考えたい。

     人間側に不利益な性質をクマたちが帯びると「凶暴化」と呼ばれる。しかし、クマたちにとっては「食べる選択肢」に人間が加わっただけともいえる。ツキノワグマは、肉食性は強くはないと思っていた。私が秋田県庁職員時代に業務で収容した100頭を超えるカモシカの死体には一度もクマが食べた痕はなかったし、クマがカモシカを襲う場面には6回遭遇したものの、カモシカは簡単に逃げおおせていた。

     確かに、クマの胃の中からはカモシカの毛やクマの毛(共食いの証拠)は確認されていたが、それは死んだものを食べていると考えていた。しかし、最近になって、クマがカモシカやシカを襲って食べる映像が撮影され、ツキノワグマの肉食性が明確になった。

     秋田県では山菜採りとして、フキやミズ(ウワバミソウ)採りがまだ続く。これらはまばらに分布するので、視界が広く、タケノコ採りのような事故は起こりにくいだろう。

     タケノコ採りで、クマと遭遇する事故は全国的な問題だ。重傷を負う率が高く、亡くなる人も多い。人間を食べたクマは遺体に執着する傾向があるが、本来は臆病な動物であり、めったに人間を襲うことはない。今回は偶発的に起きた事故であり、人間を食べる食害は、クマの間で“食文化”のように自然に伝播(でんぱ)することは決してない。

     実際に食べたクマだけが生涯、人食いグマとして生き続ける。このことを、アイヌ民族は「人を食ったクマは神に罰せられ、人食いを続けさせられる」と伝えている。

     このような事故が起きてしまっては、この地域に特化した対策が必要になる。タケノコ採りでの事故はどうやったら減らせるのか。国有林等への入林規制は実効性がないだろう。これを実行すると、さらに早朝の入山と夜遅くの下山が行われ、クマとの接触率が高まることになる。

     今回の事故では、タケノコ採りの近隣住民があまりに朝早く入山したため、クマの活発な活動時間帯と重なっていたのだ。私が調査のため山中で車中泊していると、午前4時には軽乗用車や軽トラックなどがひっきりなしに車の脇を通っていった。午前9時以降に入山可能にすれば事故は減るだろうが、タケノコ採りの人たちは無視するだろう。取り締まりを逃れる人が出て、さらに危険度が増す。

     そうした意味からも気になるのは、スーパーKをはじめとした人食いグマたちが現在、どこに潜んでいるのかだ。

    2016年06月24日 14時47分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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