文字サイズ
    社会

    好待遇の落とし穴? 求人詐欺にご用心

    法政大学教授 上西充子
     やっと就職が決まり働き始めたら給与が大幅に違っていた……転職・新卒を問わず、実際よりも労働条件を良く見せかけて求人を集める会社が増えている。このような求人詐欺は「ブラック求人」とも呼ばれ、厚生労働省によると、2015年度に全国のハローワーク(公共職業安定所)に「求人票の記載内容と実態が違った」として寄せられた苦情は約1万件。その内容は「賃金」に関することが最も多く、「就業時間」「職種・仕事」と続いていた。最近は学生が就職しやすい売り手市場になっており、企業側は早くいい人材を確保しようと、うその好条件を示すケースがあるという。なぜ求人詐欺が横行するのか。労働問題に詳しい法政大学の上西充子教授に解説してもらった。

    労働条件の変更可能性を悪用した「求人詐欺」

    • 実際よりも労働条件を良く見せかけて求人を集める会社を見極める
      実際よりも労働条件を良く見せかけて求人を集める会社を見極める

     求人票に出している条件と実際の労働条件が異なるという問題は時々話題に上るものの、社会的な関心が持続しにくい。一般的には、アルバイト開始時、新卒入社、転職・再就職などの節目にしか関わらない問題だからかもしれない。トラブルに巻き込まれた者は、納得できずに辞めるか、諦めて受け入れざるを得ないことが多い。一方、当事者でない者は「そんなの昔からある」「嫌なら辞めればいい」と簡単に片づけてしまう傾向がみられる。

     実は、求人条件と実際の労働条件が異なることは法的に許容されているのだ。例えば、月給20万円の求人に「18万円でいいから働かせてくれ」という求職者が申し込んできたとき、20万円での契約しか認められなければその求職者は雇用機会を得られないかもしれない。だからお互いが合意すれば、18万円に条件を変更して契約してもよいとされている。

     法的には労働者の募集を行う事業主は求職者に対して業務内容、賃金、労働時間などの労働条件を明示しなければならない(職業安定法第5条の3)。労働条件は的確に表示するよう努めなければならず(同法第42条)、虚偽の労働条件提示を行った者に対しては罰則も設けられている(同法第65条第8号)。労働契約締結時にも事業主は労働条件を明示しなければならない(労働基準法第15条第1項)。明示しないことに対しては罰則がある(同法第120条第1項)。

     注意すべきなのは、募集時に明示する労働条件と労働契約締結時に明示する労働条件は同じである必要は必ずしもない点だ。労働条件を変更する場合にはその旨をきちんと説明し、変更点について合意が得られれば、労働契約締結時の労働条件が有効になる。

     この変更可能性を悪用して「求人詐欺」は行われる。

     好条件で求職者を引きつけ、採用を決めたあとに労働契約の書類に署名させる。急がされてよく確認しないまま署名した書類に募集時と大きく異なる労働条件が記載されていても、事業主は「ちゃんと説明した」と主張し、「言った・言わない」の争いになってしまう。法的には虚偽の労働条件提示に罰則が設けられているが、「虚偽」であると証拠だてて取り締まることは難しく、罰則が適用された実例は皆無らしい。

    2016年08月08日 14時03分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP