文字サイズ
    生活

    今年は「元年」バーチャルリアリティは社会をどう変える?

    日本バーチャルリアリティ学会会長 岩田 洋夫

     2016年は「VR(Virtual Reality、バーチャルリアリティ)元年」とも言われている。VRとは、コンピュータで作り出した架空の世界や、遠く離れた現実の場所が、目の前にあるように感じられる仕組みのこと。今年に入って、VRを楽しめる消費者向けゴーグル型端末(Head Mounted Display、HMD)が相次いで商品化され、ソニーも、家庭用ゲーム機「プレイステーション4」に対応したHMD「プレイステーションVR」を10月に発売する予定だ。VRは現在、どこまで進んでいるのか。今後、どこまで進化していくのか。日本バーチャルリアリティ学会の岩田洋夫会長(筑波大システム情報系教授)が解説する。

    スマホで簡単にVRが作れる時代に

    • 「VR元年」の今年、消費者向けゴーグル型端末(HMD)が相次いで発売されている
      「VR元年」の今年、消費者向けゴーグル型端末(HMD)が相次いで発売されている

     VRを巡るビジネスが今、新しい展開を迎えている。米フェイスブック(Facebook)傘下のVR企業Oculus(オキュラス)の「Rift(リフト)」や、台湾のスマートフォン大手HTCの「Vive(ヴァイヴ)」、ソニーの「プレステVR」といったHMDが相次いで発売され、段ボール製のゴーグルにスマホを装着して使用する簡易HMDも登場するなど、VRの裾野が急速に広がっている。

     フェイスブックとグーグル(Google)によるVR企業への巨額投資合戦も始まった。これらの現象にマスコミが着目し、2016年が「VR元年」と呼ばれるようになったのである。

     「Virtual Reality(バーチャルリアリティ)」という言葉が初めて世の中に登場したのは、1989年(平成元年)のことだ。つまり、VRは平成と同じ歴史を歩んでいるのである。この言葉が登場した時、VRのイメージリーダーとなったのが、やはりHMDであった。

     HMDが最初に開発されたのは60年代に遡る。開発したのは、「CG(コンピュータグラフィックス)の生みの親」と呼ばれる米国の科学者アイバン・サザランド氏であった。映像表示デバイスとレンズをゴーグルの中に組み込み、広視野の立体映像を提示した。人間の目は左右に離れているため、それぞれの目には異なる像が映し出されている。これを「両眼視差」という。人間の脳はこの両眼視差によって立体を知覚する。HMDはこの仕組みを利用しており、この時以来HMDの基本原理は、変わっていない。

     一方、劇的に向上したのが、コンピュータの能力である。HMDに表示する画像は、ユーザーの頭部の動きに合わせて瞬時に変わらないといけない。すなわち、遅くとも30分の1秒という短い時間ごとに表示画像が描かれる必要がある。しかし、サザランド氏の時代のコンピュータでは、それは無理な相談であった。

     だが、89年頃には、CGの生成を高速で行う「グラフィックエンジン」という装置が付いたワークステーション(業務用の高性能コンピュータ)が市販されるようになった。そのようなワークステーションは数千万円から数億円もしたにもかかわらず、多くの研究機関が導入し、VRのシステムの開発に取り組んだのだ。

     こうして製作されたHMDも、当時は1台数百万円もしていた。筆者がVRの研究を始めたのは、筑波大学に赴任して研究室を持った86年のことである。駆け出しの時期で研究費も乏しかったので、秋葉原でポータブル液晶テレビを買ってきてHMDを作った。

     現在では、スマホに搭載されているデバイスを使えば、上記のようなVRシステムを簡単に作ることができる。スマホの画面は横長なので、それを半分に区切って、左右の目で別々に見るVR用レンズを装着すると、HMDが出来上がる。

     スマホのCPU(中央演算処理装置)に“おまけ”として付いているグラフィックエンジンでも、そこそこ見栄えのするCGが描画できる。さらにスマホには、モノの回転速度を測るジャイロセンサーが搭載されているので、これを使えば、ユーザーの頭部の動きを検出することも可能だ。

     かくして、スマホに搭載されているデバイスを用いて、VRシステムが完成する時代になった。ただ、スマホのグラフィックエンジンでは能力的に限界があるので、より高性能なハードウェアで強化したのが、Oculus「Rift」や、HTC「Vive」、ソニー「プレステVR」といった製品なのである。

    2016年08月26日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP