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    働く

    勘違いメンタルヘルスで部下の「心が折れる」時

    日本メンタルヘルス講師認定協会代表理事 見波利幸

    ■よくある誤解その2

    「部下の話をしっかり聞けばいい」

     では、「部下の話を親身に聞く『傾聴』こそが重要」という上司はどうか。実は、これも大きな誤解である。

     東日本大震災の後、カウンセリングのスキルとして「傾聴」という言葉が一般社会でも知られてきた。傾聴とは相手の立場に立って親身に話を聞こうとする聞き方や態度のことで、相手の心に寄り添うことが重要となる。しかし、付け焼刃的な知識で「とにかく聞けばいいんだ」と思い込んで行動しても、多くの場合、効果は上がらないだろう。

     部下の気持ちに寄り添ったつもりで、「大変だったね」、「よく頑張ったね」という共感だけを示しても、仕事上の課題は一向に解決せず、放置していると問題が大きくなってしまうことがある。大変さや(つら)さを理解されることで救われる一面はあるが、問題解決が図れなければ一層辛くなるだけになってしまう。

    • (写真はイメージです)
      (写真はイメージです)

     もちろん、部下からの相談に「少しは自分で考えてみろよ」などと突き放してしまう上司は論外だ。部下は、「上司が部下に思いを()せることができるのか」、あるいは「上役に(こび)売って常に自分の出世が念頭にあるのか」、どちらに意識が向いているのかを怖いほど見透かしてしまう。行き場がなくなった部下の心が折れやすくなるのは、容易に想像できるだろう。

     しかし、「聞きっ放し」だけでもダメなのだ。業務上のコミュニケーションにおいて大事なものは、主に二つある。一つは、今の部下の気持ちに焦点をあてた会話。もう一つは、その課題解決が図れるように導く会話だ。どちらが欠けても、サポートは十分ではない。

     「よくある誤解その1」でも述べたが、部下が心を開くように考慮しつつ、「問題の原因は何か」、「解決するためには何が必要か」、「それは部下だけでできるのか」「自分(上司)はどんなサポートをするべきか」を考え、解決に結び付けていくことだ。そのプロセスを踏まずに、結論だけ「こうしなさい」と単なる業務指示だけをしてはいけない。

    いざという場合は“上司出陣”

     さらに言うと、上司が取るべきサポートで一番重要なのは、「実際の手助け」の場合も多い。部下が問題を抱え、限界を感じているときに、アドバイスや気持ちへの共感だけでは起き上がることはできない。最後の最後、必要なのは実際に上司が手を動かすこと。

     イメージをしてみてほしい。部下が、水の入っている重い(おけ)を持ち続けていたとする。その桶には、さらに水が注がれている。部下は耐え切れなくなって、上司に相談をする。ある上司は、「上の蛇口を閉めて、下の栓を外して水を流しなさい」とアドバイスをする。しかし、部下は桶を持ち続けていて身動きができない状態。ある上司は、「大変だね、がんばっているね」と励まして精神的に支えようとする。しかし、それでは部下は倒れてしまう。

     この時、一番求められているサポートは、実際に上司が蛇口を止めて、栓を抜くことなのだ。

     なお、部下へのサポートの基本形態は四つに分かれる。

     <1>情報的サポート⇒問題解決が図れるようにアドバイスする。
     <2>情緒的サポート⇒励ましたり、共感したりする精神的な支えを行う。
     <3>道具的サポート⇒仕事を引き受ける、再分配するなど実際の手助けを行う。
     <4>評価的サポート⇒仕事ぶりを評価し、適切なフィードバックをする

     このうち、上司が陥りやすい失敗として、アドバイスだけに終始する、聞くことだけに専念するなど、自分が得意とするサポートだけをし続けてしまうということがある。そうすると必要なサポートが届かず、部下の心へのストレス源が大きくなり、心が折れてしまう。

    2016年09月08日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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