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    国際

    「大成功」ある米ベンチャーの大嘘と破綻

    経営コンサルタント 渡辺千賀
     日本でも近年増えてきたバイオ系ベンチャーは、投資家の関心の的だろう。しかし、一足先を走る米国シリコンバレーで大ブレークした血液検査ベンチャー「セラノス」は、成功の源となった革新的技術自体が「 大嘘 ( おおうそ ) 」と報道され、一気に価値が 凋落 ( ちょうらく ) した。そこにいたるまで700億円もの資金調達に成功したセラノス。投資家は何にだまされたのか。シリコンバレー在住で血液検査関係のベンチャー事情に詳しい渡辺さんが報告する。

    一躍スターダムにのし上がったセラノス

    • セラノス本社
      セラノス本社

     セラノスはここ1年ほど、いろんな意味で米国を騒がせてきたシリコンバレーの医療ベンチャーである。2003年にスタンフォード大学を1年でドロップアウトしたエリザベス・ホームズが19歳で起業。「1滴の血液でどんな血液検査をも可能にする」とうたって、これまでに7億ドル、約700億円近くを調達してきた(1ドル100円で換算)。14年6月には380億円を調達、その時点で時価総額は9000億円になったと言われている。会社株式の過半を所有する創業者のホームズは、「自力でビリオネアになった最年少の女性」として話題を呼んだ。

     セラノスのビジネスは「患者の指先から採取した少量の血液を(自社開発の)小さなカプセルに入れて診断センターに輸送し、(同じく自社開発の)エジソンという診断器を利用して迅速に検査結果を出す」というものだ。「1滴の血液で同時に30種類の検査項目を実施できる」という夢のような技術が実現した、としていた。大手ドラッグストアチェーンとも提携、アリゾナ州に掛け合って法規制まで変更させ、同州にあるチェーンの40店舗内にセラノス血液採取センターをオープンさせた。社員も300人を超し、ビジネスは着々と進展しているかに見えた。これらの成功を可能にしているのは19歳のホームズが考え出した革命的アイデアとされていたが、その技術の内容は「企業秘密」として謎に包まれていた。

    • 「1滴の血液から検査」で大成功するも…(写真はイメージです)
      「1滴の血液から検査」で大成功するも…(写真はイメージです)

     ホームズの行動は多分に、アップルの共同設立者スティーブ・ジョブズを意識したもので、ジョブズ同様、365日長袖で黒のタートルネックを着用していた。彼女が快適に過ごせるよう、社内の空調は夏でも摂氏20度を下回っていたそうだ(ジョブズがいたアップルのフロアも異様に寒かったが)。彼女の話し方はゆっくりで重々しく、声のトーンはありえないぐらい低くて一部のメディアでは「バリトン(男性の声域、バスとテノールの間)」とまで表現された。一方、座って話す際には足首を反対側の足の膝に乗せる、大胆というか挑発的な姿勢をとった。しかも、大きなアーモンド型の目を持つ、非常にフォトジェニックな若い女性である。メディアに取り上げられないはずもなく、フォーブス誌の表紙になるなど一躍時代の寵児(ちょうじ)となった。

    WSJが暴いた嘘

     しかし、少しずつ(ほころ)びが出始める。とある雑誌のインタビューで自社技術について尋ねられたホームズはこんな謎の回答を返した。

    “a chemistry is performed so that a chemical reaction occurs and generates a signal from the chemical interaction with the sample, which is translated into a result, which is then reviewed by certified laboratory personnel.”

     「化学によって化学反応が起こって、検体との化学的相互作用により信号が発せられ、それを結果に換算してラボの認可スタッフがレビューする」

     この奇妙な発言に違和感を感じたのは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者である。調査報道でピュリツァー賞を2度受賞したこの記者が、半年にわたる綿密な取材を経てセラノスの告発記事を昨年10月に同紙に載せたことで、事態は一変した。

     記事の内容は、セラノスが自社のエジソンを利用しているのはごく一部の血液検査だけで、それ以外は競合他社が市販する診断器を使っており、しかも指先で採取した少量の血を薄めて検査しているため結果の信頼性が低い、という衝撃的なものだった。

     その後、政府各種機関の調査が行われ、検査の不正が確認されたため、セラノスの検査センターは検査施設の許認可が取り消され、全て閉鎖。ホームズは2年間医療検査会社で働いてはならないという禁止命令まで出された(セラノスはこの勤務禁止命令処分に対し、現在反対提訴中であるが)。

    2016年09月23日 09時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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