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    芸能

    映画「君の名は。」映像美がもたらす「没入感」とは?

    早稲田大学講師 柿谷浩一
     アニメ映画「君の名は。」が幅広い世代で評価されている。ネットでは「新海誠作品の最高傑作」「日本のアニメ映画を背負う“ポスト宮崎駿”」などの称賛がやまない。観客のハートをつかんで離さないこの作品の秘密はどこにあるのか? テレビドラマ「月9」やJ-POP音楽など、若者のポップカルチャー研究で知られる早稲田大学講師、柿谷浩一さんに、「没入感」をキーワードに解説してもらった。

    劇場を飛び越えた「文化的事件」

    • (C)2016「君の名は。」製作委員会
      (C)2016「君の名は。」製作委員会

     新海誠監督の長編アニメ「君の名は。」が大ヒットを飛ばしている。人気ぶりは劇場にとどまらない。レンタルビデオショップでは過去の新海作品の貸し出しが止まらず、書店では監督書き下ろしの原作小説が売り切れるほどだ。もはや社会現象のレベルを超え、文化的な「事件」である。

     インターネット上には作品のレビューがあふれ、新聞・雑誌は様々な角度から作品解説を試みている。圧倒的な映像美、巧みなストーリー運び、作品の世界観を補強する「RADWIMPS(ラッドウィンプス)」の楽曲――。どの指摘もうなずけるが、他方でまだ肝心なことを言い落としている感じが残る。

    • (C)2016「君の名は。」製作委員会
      (C)2016「君の名は。」製作委員会

     1000年に1度の彗星(すいせい)の来訪を控えた現代の日本を舞台に、東京の男子高校生・(たき)と山深い町の女子高校生・三葉(みつは)の不思議な出会いを描いた長編アニメである。私も何度か映画館に足を運んだが、客席はいつもほぼ満席。若者だけでなく、幅広い世代に支持されているのを感じた。

     この作品の人気の秘密を考えるのに、やはり映像の美しさを外すことはできない。

     新海作品の最大の特色は、背景描写の圧倒的な美しさだ。ロケハンによる写真をベースに、デジタル技術を駆使して丹念に描かれる背景は、実写と見まごうほどリアルで、みとれてしまう。前作「言の葉の庭」(2013年)でも、繊細な筆致と絶妙な色彩で描かれた雨の公園や、板チョコなどの静物、映像にあるものすべてが本当に「そこ」にあるかのような存在感と迫力があった。

     今作でもこの「背景美」は精度を高めて健在だが、これまでと決定的に違うことがある。「背景」がエンターテインメントを楽しむための<仕掛け>として、見事に機能していることだ。

    • (C)2016「君の名は。」製作委員会
      (C)2016「君の名は。」製作委員会

     多くの観客は、予告編にあった「男女が入れ替わる物語」を超える想定外のストーリー展開に驚かされることになる。ここで大事なことは、どうやって観客を物語のクライマックスまで連れて行くかである。そこで新海が用意したのが、「背景」を使って無理なく観客に“ヒント”を与え、物語に“没入”させることだった。

     観客が目を奪われる微細な「背景」には、新海の手によって物語の重要な伏線やヒントが埋め込まれている。スマホ画面の日付、黒板の小さな文字、テレビ画面や街頭ビジョンのさりげない映像……。観客は「背景美」に()きこまれながら、無意識のうちに、物語全体を読み解く=楽しむ=ためのカギを拾っていく。登場人物のセリフや表情だけでなく、「背景」もその重要な役目を果たしているのである。

     新海はこれまでの作品でも、登場人物の心情や場面の意味を背景で暗示することはあったが、今作の「背景」が担う役割は種類が異なる。これは、観客が等しく作品を楽しめる本質的なポイントであり、新海の真骨頂になっていると言える。

    2016年09月23日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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