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    国際

    宿敵・米国と関係改善、キューバが抱えるジレンマ

    ジェトロアジア経済研究所 山岡加奈子

    キューバ民間部門を支援、その意図は?

     オバマ政権は、国交正常化交渉開始が発表された14年12月以来、対キューバ経済制裁の部分解除を実行してきた。解除のやり方にも「キューバの民主化を促進する」という米国政府の意図が明確に表れている。

     まず、キューバ国民が政府に依存せず経済活動ができるよう、キューバの民間部門に対して、小規模な融資(マイクロファイナンス)を認めた。キューバは今まで中国などのような大胆な経済改革を行っておらず、労働者の約7割は今も公務員や国営企業など国家と関係の深い部門で働いている。

     つまり、労働者の3人に2人以上が、人前で政府の公式見解から外れた意見を言うことをためらってしまうのだ。政府に対して批判めいたことを口にすれば、望まない配置転換や事実上の首切りという形の「罰」が待っているからである。

     民間部門が成長し、労働者の多くが政府と関係ない部門で収入を得ることができるようになれば、発言ひとつで政府の顔色をうかがう必要はなくなるだろう。オバマ政権はこれを狙って、キューバの民間部門の発展を促すような政策をとっているのである。

    グーグル、FBに「NO」、参入企業を厳しく選別

     また、米国政府は、情報通信関連の米国企業のキューバへの投資を解禁した。キューバでは国民のインターネットへの接続は大きく制限されている。国営インターネットカフェの利用料金は1時間あたり2.25ドルから14ドルもする。

     15年における公務員の平均月収が約30ドルという現状を考えれば、政府が価格を高めに維持することで一般人のインターネットへの接続を制限しているととられても仕方がない。米国が自国の情報通信関連企業のキューバ投資を認めたのは、そうした状況に風穴を開けるためだった。

     それに対し、キューバは中国企業に門戸を開いた。昨年7月、中国の通信企業・華為(フアウェイ)の投資により、キューバ国内40か所(屋外)に無料のWi―Fiスポットが設けられた。フェイスブックやツイッターにもアクセスできるそうだが、需要に比べて通信容量が少ないため、接続は不安定である。

     また、Wi―Fiスポットでネットにアクセスするためにはラップトップコンピューターやタブレットを持っている必要があるが、キューバ人でそれを入手できるのは、米マイアミなど海外に移住した親類から援助してもらえる層に限られる。

     グーグルやフェイスブックといった米国IT関連企業は、オバマ政権による規制緩和でキューバ投資の道が開かれたものの、足場を築くことができていない。キューバ政府は、キューバ民主化を目指す米国政府のもくろみをくじくため、これらの米国企業がキューバに幹部を送った時、すべての提案を断ったと伝えられる。

     キューバ政府は国交正常化後、米国に経済制裁の全面解除を要求している。しかし、仮に制裁が全面解除されたとしても、キューバ政府は参入する米国企業を厳しく選別し、革命体制を脅かさない分野や企業に限って受け入れることになるだろう。

    民間部門の交流は拡大

     他方、民間部門、すなわち自営業者(キューバでは民間の中小企業体は認められていない)に対する小規模な融資やその他の支援は非常に盛んになってきた。マイアミからフロリダ海峡を越えてハバナまでは飛行機でたった35分。キューバで余裕のある自営業者はマイアミの業者に注文を出し、翌日には飛行機で商品を届けてもらえる。

     今年8月下旬にはジェットブルー、9月に入ってアメリカン航空が米国とキューバを結ぶ定期便を開設したが、ハバナに来るのはまだチャーター便のみである。それらの飛行機に搭載してもらうのだ。

     おかげでそれまで高価な国営外貨ショップでしか手に入らなかった衣料品や靴、自営レストランで使われる高価な食材なども、マイアミから直接入るようになった。親類や友人に頼んで、関税のかからない少額小包みの中に注文の品を入れ、送ってもらうのである。

     また、オバマ政権は、キューバ系でない米国人のキューバ渡航にかかわる制限を大幅に緩和した。これまでも、文化交流や宗教、援助関係や学術交流など、キューバ渡航が認められる12種類のカテゴリーに該当すれば、米国人がキューバに旅行することはできた。しかし、審査に半年以上かかるのが常で、手軽に行くことはできなかった。オバマ政権は、この12のカテゴリーのいずれかに当たると本人が申告すれば、審査なしで渡航できるようにしたのである。

     このため、14年から15年にかけて、米国からの渡航者は2倍近くに増加した。渡航の目的は、ビジネスの可能性を探るためだったり、キューバに留学するためだったりと、様々だ。自由時間には皆、街中へ出て、キューバ人と交流し、キューバの現実についていろいろと聞き出したり、自分たちの意見を言ったりしている。

     これはオバマ政権が狙う「草の根交流を通じた両国民のコミュニケーション拡大と相互理解の増大」に寄与するものだ。長い目で見れば、民主主義をはじめとする米国の価値観がキューバに流入することは避けられそうにない。

    2016年09月28日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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