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    経済

    目指せ「3K」…農業人口激減でも元気な理由

    農業ジャーナリスト 青山浩子

    流通・加工にも気を配る

    • バーベキューパーティーで肉のおいしさをアピールする宮治勇輔社長(みやじ豚提供)
      バーベキューパーティーで肉のおいしさをアピールする宮治勇輔社長(みやじ豚提供)

     「生産だけでなく、加工や流通までトータルで考えることで農業はおもしろくなる」――。一度は会社勤めをしながら、実家の養豚業を継いだ「みやじ豚」(神奈川県藤沢市)の宮治勇輔社長(38)はいう。年間1300頭もの豚を出荷している。

     「農業で飯は食えないから東京に出て働け」という家族の言葉に疑いを持つことなく、大学を卒業し、サラリーマンになった。

     しかし、「その頃、手に取った本はなぜか農業の本が多かった」という宮治社長。本を読み進めるにつれ、ある記憶がよみがえった。

     大学時代に、近所の人や友人を招いて、実家で生産した豚肉を食べるためにバーベキューパーティーを開いた。「おいしいね。この肉、どこの店で買えるの?」と聞かれたが、家族のだれも答えられなかった。「農協に出荷すれば仕事は終わりで、農家はその先の流通にまで関心を持たないのが普通。うちもそうだった」(同社長)

     そこにビジネスチャンスを見出した。「おいしいと言ってくれるのは、それだけの技術を親父が持っているということ。あとは自分の育てた豚がどこで売られるのかを把握し、食べた人からの評価も返ってくるようにすれば、農業はおもしろくなる」。

     2005年に農業に就いた宮治社長がまず始めたことは、自社の豚肉のおいしさを知ってもらうためにバーベキューパーティーを月に1回開くことだった。

     知人や友人にメールで参加を募ると、毎回100人以上から申し込みが舞い込んだ。参加費は約4000円。豚肉や地元産の野菜を思う存分食べてもらう。そのおいしさが口コミで広まり、レストランや百貨店への販路が生まれた。「みやじ豚」というブランドが知られるようになった今でも、このバーベキューパーティーは続けている。

    「3K」で就農アピール、農家の“常識”覆す

     宮治社長は自社の規模拡大を考えていないという。それよりも後継者不足に悩む日本の農業に変革を起こそうと、農家に生まれながら都会に出ていった若者たちに実家に戻っての就農を促す活動に力を入れている。

     活動の拠点であるNPO法人「農家のこせがれネットワーク」の代表理事もつとめ、就農を検討している若者を集めて「農業をカッコよくて、感動があって、稼げる“3K”産業にしよう」と呼びかけ、情報発信をおこなう。

     「会社勤めは自分でなくてもできる。親たちが築いてきた『巧み』の技術に、こせがれたちが持つ情報や人脈を合体させれば農業は変わる」と将来の「こせがれ」たちに訴える。

     呼びかけに賛同し、実家に戻って農業を継いだ若者は多い。緩やかな組織であるため会員登録制にしておらず、就農した人数を宮治社長自身も把握していないというが、北海道、関東、東海、関西など地域ごとの「こせがれネットワーク」が誕生するなど活動は確実に広がっている。「農業だけはやめておけ」と農家が子供たちに言い聞かせた時代からすれば隔世の感だ。

     高齢化、後継者不足など農業が数多くの課題を抱えていることは間違いない。だが、品質にこだわって農産物を育てる農家の努力は、途切れることなく脈々と受け継がれてきた。そこに、消費者の視点を取り入れていくことで、新たなマーケットを創造していくことができるはずだ。そうした新たな農業を受け継ぐ若者たちが増えていくことが、日本の農業の未来を明るくする「光」になると思う。

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    プロフィル
    青山 浩子( あおやま・ひろこ
     1963年愛知県生まれ。99年より農業関係のジャーナリストとして活動中。1年の半分を農村での取材にあて、奮闘する農家の姿を紹介している。農業関連の月刊誌、新聞等に連載。

    2016年09月30日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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