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    経済

    台湾・中国のせいだけではなかったサンマ不漁のワケ

    「水産研究・教育機構」主任研究員 巣山哲
     サンマが記録的な不漁に陥っている。その原因として、台湾や中国の漁船による公海上での「先取り」の影響が指摘されている。だが、調べてみると、そう単純な問題ではなさそうだ。国立研究開発法人水産研究・教育機構で長年にわたり水産資源管理の調査・研究に従事してきた巣山哲・主任研究員に、最新の研究成果を解説してもらった。

    日本近海から姿を消したサンマ

    • 大漁旗をはためかせて出港するサンマ漁船(2016年8月18日、気仙沼港で)
      大漁旗をはためかせて出港するサンマ漁船(2016年8月18日、気仙沼港で)

     8月下旬になると、サンマ漁業の主力となる(ぼう)受け網漁船がすべて出漁し、サンマの水揚げが本格化する。しかし、その漁獲量が伸び悩んでいる。昨年の年間漁獲量は11.2万トンで1980年以降では最低となったが、今年9月10日までの水揚げ量は、昨年の6割に満たなかった。9月中旬になって、ようやく漁況が上向き、漁獲量も昨年並みに近づいてきたものの、かなり深刻な事態である。

     もともとサンマは毎年の漁獲量の変動が大きく、豊漁と不漁を繰り返してきた。90年代や2000年代には年間25万トン以上漁獲された時期もあったが、80年代や90年代の終わりには、2、3年連続して10万トン台だったこともある。

     サンマは6、7月には、日本のはるか沖合にいて近海には少ない。毎年の漁獲量は、海にサンマがどれくらいいるか、そのうちどれくらいが日本近海にやって来るかに左右される。海にいるサンマの量を「資源量」、日本近海まで回遊してくる量を「来遊量」と呼んでいる。

     私たち「水産研究・教育機構東北区水産研究所」は水産庁の委託を受け、毎年6、7月に日本近海から北太平洋のほぼ中央である西経165度までの海域で、サンマの資源量を調べている。トロール網という袋状の網でサンマがどこにどれくらいいるかを調べて、調査海域全体の「資源量」を推定する。この調査結果に、過去の魚群の動きや海流のデータを加えて「来遊量」を予測するのだ。

    • 2007年と15年の6、7月のサンマの分布の比較。東北区水産研究所調査結果から。丸が大きいほどサンマが多く獲れたことを示す。10年以降、日本近海からサンマが姿を消した
      2007年と15年の6、7月のサンマの分布の比較。東北区水産研究所調査結果から。丸が大きいほどサンマが多く獲れたことを示す。10年以降、日本近海からサンマが姿を消した

     資源量の調査は2003年から行っているが、10年に資源量が減少してから、以前の水準には回復していない。調査海域全体の資源量は、03~09年は283~502万トンで推移していたが、10年以降は178~311万トンに減少した。資源量の減少は日本近海で顕著だ。東経162度までの資源量は、09年以前は26~212万トンだったが、10年以降は1~25万トンと、ほぼ十分の一になってしまった。漁期初めのサンマは、09年以前は北海道・納沙布岬を起点として約850キロメートル離れた東経155度付近から回遊してきた。しかし、10年以降はサンマが少ない海域が東経160度付近まで東に広がったのだ。

     サンマの分布海域が日本から遠くなってしまったので、漁期が始まっても日本近海に来遊するまで時間がかかるようになった。漁船は遠くまで()りにいかなければならないし、本格的な来遊までは魚群の密度も低い。そのため、10年以降は、8月の解禁から9月上旬頃までの漁獲量が伸び悩むようになった。ただ、東経162度以東の資源量は減っていないので、9月中旬にこれらの魚群が来遊して、それ以降の漁獲量は平年並みとなっていた。

    回遊ルートの変化、台風、そして「招かざる客」…

     しかし、昨年からは、サンマが日本近海に到達した後の回遊経路も変化した。この海域では、冷たい親潮と、暖かい黒潮がぶつかり、冷水と暖水の境界付近に漁場ができる。14年以前は親潮の一部が北海道沿岸に沿って流れ込み、道東から襟裳沖、さらに三陸沖へと日本列島沿岸に沿ってサンマは南下していた。しかし、昨年から、北海道沖を暖水が岸近くまで覆うため、親潮が沿岸に入り込むことができなくなった。サンマは親潮に乗って南下するので、漁期のピークとなる10月には三陸沿岸にできていた漁場も東の沖合に移ってしまい、漁船は時間をかけて遠くの漁場に出漁しなければならなくなった。

     大型船は排他的経済水域(EEZ:いわゆる200カイリ)の外まで操業海域を広げ、沿岸でしか操業できない小型船は、沿岸でわずかなサンマを求めて厳しい漁を強いられている。沖合の漁場のさらに東の沖合を南下するサンマも多いと思われ、資源量の減少以上に、来遊量が減ってしまったのである。

     今年は相次ぐ台風によって操業できる日数が少なかったことも、漁獲量の減少に拍車をかけている。そのうえ、日本近海でサンマが減った海域ではマイワシやマサバが増加し、サンマ漁船に新たな問題を引き起こしている。サンマを専門にとる棒受け網漁船にとって、招かざる客であるマイワシやマサバが網に混入してしまうのである。ロシアの管轄が及ぶ海域では、魚種別に漁獲量が定められており、漁獲量を報告する必要があるのだが、その報告を巡って漁船が連行される事態まで起きている。これではサンマの群れを見つけても、マイワシやマサバが混じっていると、操業が難しくなるだろう。

    2016年09月29日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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