文字サイズ
    国際

    「美麗中国」本気度は?パリ協定批准の舞台裏

    総合地球環境学研究所教授 窪田順平
     温暖化対策の新たな国際的枠組みである「パリ協定」を、中国と米国が批准した。両国は温暖化ガス排出量世界1位、2位の「大国」で、それ以前の枠組みだった京都議定書には不参加だった。特に中国は、微小粒子状物質(PM2.5)をはじめ、深刻な環境汚染問題をいくつも抱えている。なぜ今、温暖化対策に本腰を入れようとするのか。総合地球環境学研究所の窪田順平教授に、その意図を読み解いてもらった。

    歴史に残る「2つの日」

     昨年(2015年)12月12日は、歴史に残る日となった。温暖化対策の新たな国際的枠組みである「パリ協定」が、前月に起きた同時多発テロ事件からわずか2週間ほどの時期に、厳戒態勢のパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)の場で、予定よりも1日遅れで採択されたのだ。

     それまで、多くの国と人々が地球温暖化リスクを認識しつつも、経済成長を望む発展途上国と先進国間の対立という構図の中で合意を得られないという状況が続いていた。途上国の立場を強く主張する中国の反対によって失敗に終わったコペンハーゲン(COP15)などの挫折もあった。しかし、各国の地道で継続的な対話によって様々なハードルを乗り越え、発展途上国を含む世界各国が二酸化炭素など温室効果ガスの排出量削減に取り組むという歴史的な協定として実を結んだのだ。12月12日は温暖化対策の新たな時代の始まりの日になった。

     そして、中国が初めて議長国を務めるG20の開催直前だった9月3日、アメリカと中国が共同でパリ協定への参加(批准)を発表した。これまでの温暖化対策に関する国際的な枠組みであった京都議定書(1998年合意)には参加しなかった二つの「温室効果ガス排出大国」が批准するという、もうひとつの歴史的な日となったのだ。

    先進国と途上国の対立を超えた「パリ協定」

     これまで温暖化対策のための温室効果ガス排出量削減をめぐっては、先進国と発展途上国の対立など、それぞれの国の思惑が大きく異なり、合意が妨げられてきた。パリ協定では、それらを克服する様々な工夫がなされている。

    “2段構え”の長期目標

     産業革命以後の気温上昇を2度未満に抑えるという従来から合意されていた目標に加え、1.5度に抑えることも視野に入れた。温暖化にともなう海面上昇によって国土の多くが水没するおそれもある島嶼(とうしょ)国を意識したものだ。

     パリ会議の中で、南太平洋のキリバスやマーシャル諸島などが「ハイ・アンビション・コアリション(野心連合)」を組んで、倫理的な面から協定の成立を訴え、議長国であるフランスやEU諸国がサポート。これが大きな力となった。温暖化対策に消極的な中国やアメリカも、こうした流れの中に加わらずにはいられなかった。この動きは、パリ協定に強い倫理的な規範を与えることになった。

    削減目標は「自発的に設定」…取り組みには法的拘束力も

     パリ協定は、各国が自ら削減目標(約束草案)を定めて宣言するという「ボトムアップ」型の枠組みになっている。目標に向けての努力には法的拘束力があるが、「トップダウン」型の京都議定書では各国の排出削減目標に法的拘束力があったのとは大きく異なる。これは発展途上国のみならず、参加に消極的であった各国の事情に配慮し、ハードルを引き下げたと言える点だ。

    長期的目標、すべての国が設定

     パリ協定では、これまで削減対象から外れていた発展途上国も含めて、国際条約の中で長期目標を設定した。すべての参加国は、この長期目標の実現のために排出削減策を前進させ続けなければならない。排出削減目標は5年(ごと)に更新し、新たな目標は前の期のものから進展させることが義務づけられている。

    多数参加の“代償”も

     ボトムアップ型の制度によって多くの国の参加を可能にした「引き替え」として、課題も多く残った。各国の現在の約束草案は、足し合わせても、2度未満の目標達成にはほど遠い。今後、削減量が目標達成に足りないとわかった時にどう対処するかについては、実はまだ定められていない。

    2016年09月30日 11時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP