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    働く

    働き方改革、ドイツに学ぶべき点はここだ

    在独ジャーナリスト 熊谷徹
     安倍政権が「働き方改革」に力を入れている。日本人の長時間労働にメスを入れ、生産性を向上させるのが狙いだという。この点で日本の先を行くのがドイツだ。日本より労働時間が短く、生産性は高い。なぜこれが可能になったのか。在独ジャーナリストの熊谷徹さんにその秘密を解き明かしてもらった。

     ドイツに駐在している日本の商社マンとビールを飲んだ時、彼がこう言った。「ドイツ人はこれほど労働時間が短いのに、なぜ経済がきちんと回っているのだろう?」

     私はドイツで26年間働いているが、いまだにこの国のサラリーマンたちの労働時間の短さ、休暇の長さには驚嘆させられる。

    高い生産性、カギは労働時間

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     ドイツは世界の主要な国の中で最も労働時間が短く、日本よりも有給休暇の取得率がはるかに高い。それにもかかわらず、高い経済パフォーマンスを維持することに成功している。

     「物づくり大国」という目指す方向は日本と同じだが、2011年にはインダストリー4.0(第4次産業革命)を提唱。工業のデジタル化で製造業の様相を根本的に変え、コスト削減で先頭を走ろうとしている。ただ休みが長いだけの国ではないのだ。輸出額を年々増大させ、15年の貿易黒字は経済協力開発機構(OECD)加盟国内で最大だった。おまけに、社会保障サービスの水準も日本を大幅に上回っている。

     OECDによると、ドイツの14年の労働生産性(労働時間あたりの国内総生産)は64.4ドルで、日本(41.3ドル)を約56%上回っている。

     ドイツの労働生産性が日本を大幅に上回っている理由は、ドイツの労働時間の短さである。ドイツの例は、労働時間が短くても経済成長を維持し、社会保障システムによって富を再分配することが可能であることを示している。

     ドイツは「時短」大国だ。OECDによると、14年のドイツでは、労働者1人あたりの年間平均労働時間が1371時間だった。

     これは、OECD加盟国の中で最も短い。日本(1729時間)に比べて約21%も短い。日本よりも358時間、OECD平均よりも399時間、韓国よりも753時間短いことになる。

    長時間労働は評価されない

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    • 日本では残業が当たり前という考え方が今も根強い
      日本では残業が当たり前という考え方が今も根強い

     ドイツでは、1日10時間を超える労働は法律で禁止されている。労働条件を監視する役所が時折、労働時間の抜き打ち検査を行い、1日10時間を超える労働を組織的に行わせていた企業に対しては、最高1万5000ユーロ(約172万5000円)の罰金を科す。

     企業は罰金を科された場合、長時間労働を行わせていた課の管理職にポケットマネーから罰金を払わせる。このため、管理職は繁忙期でも社員が10時間を超えて仕事をしないよう、細心の注意を行う。

     ドイツ企業では、「短い時間内で大きな成果を上げる」社員が最も評価される。成果が出ないのに残業をする社員は、全く評価されない。

     このためドイツでは、長時間労働による自殺や過労死、(うつ)病は日本ほど大きな社会問題になっていない。

     現在ドイツは景気が非常に良い。今年8月のドイツの失業率は4.2%で、EU加盟国の中でチェコに次いで2番目に低い。南部の物づくり企業を中心として、技能を持った人材が恒常的に不足している。

     このため、ある企業が長時間労働をさせていたことがメディアで報じられると、優秀な人材が集まらなくなる。ドイツ人は「ワーク・ライフ・バランス」を重視している。このため、企業は優秀な人材を確保するためにも、労働条件が悪いという評判が立たないように神経を使う。

    2016年10月11日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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