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    生活

    増える子どもの転落事故…背景に「高所平気症」?

    福島学院大学教授 織田正昭
     近年、子どもが高層マンションから転落する事故が多発し、今年に入ってからも、たびたび報道されている。増える子どもの転落事故の一因に、高層マンションに住む人が増えたことで、子どもたちが高さに恐怖を感じにくくなった「高所平気症」があるという。この問題に詳しい福島学院大の織田正昭教授に、そのメカニズムを解説してもらった。

    毎月のように…相次ぐ子どもの転落事故

    • 高層マンションから転落する事故が相次いでいる(写真はイメージ)
      高層マンションから転落する事故が相次いでいる(写真はイメージ)

     近年、子どもが高層マンションから転落する痛ましい事故の報道が目につきます。

     今年4月には、大阪市で小学校に入学したばかりの女児がマンションの43階から転落死するショッキングな事故がありました。8月には兵庫県西宮市で、マンション8階に住む6歳男児が、ベッド脇にある出窓の破れた網戸から落ちて亡くなりました。さらに9月には横浜市で、3歳男児がマンション9階から転落死しています。

     東京消防庁が2011年に発表した統計では、子ども(0歳~12歳)の転落事故は、05年4月から10年7月までの約5年間に277件発生しています。年間平均で50件以上の転落事故が起きた計算です。

     16年の同庁の統計でも、東京都内のマンションなどのベランダや窓から転落して救急搬送された5歳以下の子どもは、11~15年の約5年間で114人に上っています。

     転落階は2、3階という低層階からの転落事故が80%以上と圧倒的に多いのですが、5階以上からの転落も10%程度みられます。高層階からの転落は死亡などの重大な事故につながるため、発生件数が少ないとか確率が小さいからといって決して軽く見てはいけません。

     東京消防庁の統計は、管轄内で病院へ救急搬送されたケースに限られています。危機管理分野でしばしば用いられる「ハインリッヒの法則」(※)を考えるまでもなく、実際の転落件数は公表数の数十倍に上ると思われます。高層マンションからの転落死1件の背景には、少なくとも数百件の軽微な事故や「ヒヤリ・ハット事例」があると考えるべきでしょう。

    ※ハインリッヒの法則:1件の重大事故の背景には、29件の軽い事故と、事故には至らない300件の小さなミスがあるとする安全工学上の経験則。医療や航空などの分野では、軽微なミスを集めた「ヒヤリ・ハット事例」を分析したりして、事故やトラブルの防止に役立てている。

    ベランダは遊び場…増える「高層居住児」

    • 東京臨海地区の高層マンション群(織田氏提供)
      東京臨海地区の高層マンション群(織田氏提供)

     高層マンションはその眺望の良さ、安定した資産価値、ステータスシンボル性、充実した共用設備などをメリットとして人気が高く、安定した需要があります。20階建て以上の「超高層住宅」は、全国で現在約9万戸に上り、毎年30~40棟前後の超高層マンションが竣工(しゅんこう)しています(不動産経済研究所:2016年)。

     リクルートの「首都圏新築マンション契約者動向調査2015年」によれば、マンション居住者のうち、子どもがいる家庭は約45%。少し古いデータですが、国土交通省がまとめた「首都圏整備に関する年次報告書(首都圏白書)平成17年版」によれば、超高層マンション居住者のうち中学生以下の子どもが同居している家庭は24%と報告されています。いかに「高層居住児」が多いかわかります。

     近年の高層マンションの増加に伴って、地上からはるか離れた高層空間で生まれ育つ子どもが増えてきました。筆者がこのテーマに取り組み始めた1980年代初めころは、高層住宅といえばせいぜい20階前後、高さはおよそ50m程度でした。

     今ではオフィスビルと競うかのようにマンションも高層化し、100mはおろか、200m超の「超高層タワーマンション」も出現しています。東京では50階超、250m近いマンションも出てきました。

     一般に高層マンション、特に高層階ともなると、居住者はエレベーター(EV)を使わざるを得ません。EVの操作ボタンに手が届かない幼少児は、母親などと一緒でない限り外出できませんから、子どもにとって外遊びはどうしても制限されます。

     その結果、「遊びの三間」すなわち遊びの時間、仲間、空間(=場所)を失ってしまいます。そんな子どもたちにとって、ベランダは格好の遊び場なのです。さらに最近ではベランダを「セカンドリビング」「ベランダカフェ」などといった生活の場にするケースすらあります。ベランダからの子どもの転落事故の危険性は高まるばかりなのです。

    2016年10月15日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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