文字サイズ
    自動車

    トヨタはスズキにとって最良の提携相手なのか

    モータージャーナリスト 御堀直嗣
     トヨタ自動車とスズキが、業務提携に向けた検討に入ることで合意した。提携の分野は、環境技術や安全技術などとされるものの、トヨタの豊田章男社長が記者会見で「何ができるのかはこれから考えていきたい」と述べたように、“見切り発車”の提携発表だったようだ。自動車業界では自動運転技術などを巡って、同業、異業種との提携が相次いでいるが、トヨタ、スズキ両社による提携は正しい選択だったのか。モータージャーナリストの御堀直嗣氏が持論を展開する。

    スズキと日産の共通点

    • 業務提携を発表するトヨタ自動車の豊田章男社長(左)とスズキの鈴木修会長(10月12日、都内で)
      業務提携を発表するトヨタ自動車の豊田章男社長(左)とスズキの鈴木修会長(10月12日、都内で)

     トヨタとスズキが提携するというニュースは、私には唐突感が否めなかった。トヨタ・豊田章男社長、スズキ・鈴木修会長の両トップが出席した記者会見でも、どのような将来像を描いて提携するに至ったのか、その具体的な内容は明かされなかった。

     今回の提携話は、鈴木会長が章男社長の父・豊田章一郎名誉会長に持ちかけたものだという。スズキが環境技術や安全技術などをトヨタに頼る一方、トヨタは自社技術を競合他社にも採用してもらうことで「世界標準化」を推し進めようとの思惑があると見られる。とは言え、スズキがトヨタに提携を持ちかけたことは、私には予想外の出来事であった。なぜなら、スズキは日産自動車と関係を深めていくのではないかと想像していたからである。

     スズキと日産は、ガソリンエンジン車において、エンジンの回転をタイヤに伝える装置の一種である「副変速機付き無段変速機」はともにジヤトコ(JATCO)製を採用し、軽自動車や小型車で燃費向上と活気ある走りを両立させてきた。ジヤトコは、日産、スズキ、三菱自動車の3社が出資して99年に設立された部品メーカーである。

     また、スズキは現在、無駄なガソリンを使わずに電力を作るエネルギー回生システム「エネチャージ」に、東芝製のリチウムイオンバッテリー「SCiB」を使っている。そのリチウムイオンバッテリーの技術と量産実績で世界先端をいくのは、日産とNECの合弁会社「オートモーティブエナジーサプライ(AESC)」である。

     AESCのリチウムイオンバッテリーを搭載した日産の電気自動車(EV)「リーフ」は、2010年の発売開始以来、バッテリー事故ゼロを更新しており、その性能の高さと安全性は折り紙付きだ。AESCの生産能力にはまだ余裕があり、なおかつ、これまで副変速機付き無段変速機でジヤトコを介しながら関係を保ってきた日産と、技術面での提携があってもおかしくないと考えたのだ。

    • 自動車大手の主な提携関係
      自動車大手の主な提携関係

     全国のガソリンスタンド件数が大きく減少している今日、公共交通機関の手薄な地方で軽自動車の有用性は特に高く、今後は軽EVの導入が一層期待されていくことになるだろう。そうした中、軽自動車販売でトヨタの子会社・ダイハツと首位を争うスズキが、軽EV導入への第一歩を踏み出すとしたら、その要となるリチウムイオンバッテリーを、日産は持っているといえる。

     加えて、スズキが立ち遅れに危機感を抱いているとされる自動運転についても、トヨタ、ホンダの国内2メーカーに比べて日産は、自動運転の技術開発への積極性が目立つ。トヨタ、ホンダが20年に高速道路での自動運転の実用化を目指しているのに対し、日産は高速道路にとどまらず、一般道の交差点でも実用化を目指すと表明しているのである。

     自動運転の普及に向けた第1弾として、日産は先頃、新型ミニバン「セレナ」で、「プロパイロット」と称する運転支援システムを実用化した。高速道路の渋滞時、前を走るクルマとの車間距離を自動的に保ち、車線内の中央を維持して走り、なおかつカーブではハンドル操作を行える機能を備える。これが高級車での装備ではなく、手頃な価格のミニバンで搭載された意義は大きい。

     最近、米テスラ・モーターズの自動運転での事故のニュースが大きく報じられ、自動運転に対する不安や懸念の声も出ているが、日産は、セレナを通じてより多くの人が運転支援を体験できる機会を作ることによって、運転支援や自動運転への理解を深めてもらおうとしているのである。

     軽自動車にいち早くエネルギー回生システムを持ち込んだスズキと、自動運転につながる運転支援技術をいち早くミニバンに導入した日産の取り組みには、相通じるところがある。そう考えてきた私にとって、スズキとトヨタとの提携は、まさに想定外だったのだ。

    2016年10月17日 16時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP