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    経済

    米ボーイング100年史に刻まれた日本の「空」

    航空ジャーナリスト 青木謙知

    MRJにつながるボーイングの技術

    • ボーイング777(ボーイング・ジャパン提供)
      ボーイング777(ボーイング・ジャパン提供)

     この時、ボーイングには2つの道があった。1つは7J7の推進であり、もう1つは既存旅客機737の改良版を作ることで、どちらにもメリットとデメリットがあった。前者はA320と同様に最新の技術を取り入れることができる一方、開発にコストと時間がかかる。就航開始や機体価格などでA320に差を付けられる恐れもあった。これに対して後者の737改良型はすぐに実用化でき、機体価格も安く抑えられる。ただ、最新技術の使用という点ではA320に大きく水をあけられてしまうのがデメリットであった。

     結局、ボーイングは後者を取った。安く済む機体を早く実用化させることで、A320が登場する前に市場を席巻しておこうという判断であった。新技術については、必要であれば後から追いかけることにしたのである。

     日本の航空機産業がこの決定に大きく失望したのは言うまでもない。しかし、7J7を新規開発しなくなったことで、ボーイングは新たな大型機の開発を進められることになった。つまり、767とジャンボ機747の中間規模の旅客機で、今の777となる機種である。そしてこの777にも日本の航空機産業は製造分担で参画することができた。その作業シェアは、767の実績を上回る21%にも上ったのである。

    • ボーイング787(ボーイング・ジャパン提供)
      ボーイング787(ボーイング・ジャパン提供)

     もっとも、日本の受け持ち部位はすべて金属製で、希望していた複合材料製の部位はすべてボーイングを含むアメリカ企業に取られてしまったのだが……。なお、ボーイングは現在、777の改良・発展型として777-8/9を開発していて、これについても日本は同じく21%の作業シェアを確保している。

     777に続いてボーイングとの共同事業となったのが、250席級旅客機787ドリームライナーだ。この機体はほぼ半分が炭素繊維複合材料製で、日本はボーイングと同じ35%の作業シェアを獲得し、もちろんすべて炭素繊維複合材料製の構造部位の製造を担当している。ちなみに、三菱重工業が主翼を、川崎重工業が中部胴体を受け持った。これらは炭素繊維複合材料による一体成形で作られている。日本には、炭素繊維複合材料製コンポーネントを焼き固める装置「オートクレーブ」の、世界一長いものと世界一太いものがあることを添えておきたい。

    • 飛行試験を再開したMRJ(2016年9月9日、名古屋空港で)
      飛行試験を再開したMRJ(2016年9月9日、名古屋空港で)

     このようにボーイングは創業100周年の歴史の半分以上の期間にわたって、日本の航空機産業と深い関係を持ち、そのことが日本の航空機産業の発展に大きく寄与したことは間違いない。

     今日、三菱航空機がYS-11以来、半世紀ぶりとなる国産旅客機MRJを開発し、飛行試験を行っているが、MRJが実現した背景の一つに、日本の航空機産業がボーイングの旅客機製造に携わってきたことが挙げられるのは当然である。また、MRJが実用化したあとは、航空会社が運航するMRJの管理についても、ボーイングの既存のシステムを活用することになっており、アフターサポート面でボーイングの協力を得る。

     航空宇宙産業の様々な分野で、ボーイングと日本の関係は今後も深化を増していくことになろう。

    プロフィル
    青木 謙知( あおき・よしとも
     航空評論家。日本テレビ客員解説員。1954年北海道生まれ。77年航空ジャーナル入社。84年月刊「航空ジャーナル」編集長。88年からフリーに。航空専門誌への寄稿だけでなく、雑誌やテレビなどで航空・軍事問題に関する評論活動を行っている。主な著書に「F―2の科学:知られざる国産戦闘機の秘密」「決定版 世界の旅客機FILE」「第5世代戦闘機F―35の凄さに迫る!」「図解 ボーイング787VS.エアバスA380」「マイルの奴隷:本気でやったら意外と楽しい!?」「F-15Jの科学:日本の防空を担う主力戦闘機の秘密」など。

    ◆あわせ読みたい
    なぜ全日空は定員オーバーで飛ぼうとしたのか?(2016年10月13日)
    世界に羽ばたけるか、日の丸ジェットMRJ(2015年10月23日)

    2016年10月20日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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