国際

極右政権阻止でも喜べないマクロン氏の前途
東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授 渡邊啓貴
7日に投開票が行われたフランス大統領選の決選投票では、中道で無所属のエマニュエル・マクロン前経済相が、極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏を大差で破った。欧州連合(EU)の統合推進を掲げるマクロン氏の勝利で、EU解体の危機はひとまず回避されたが、これで安心することはできない。39歳の若き指導者に未来を託したフランスには、どのような試練が待ち受けているのか。東京外国語大学大学院総合国際学研究院の渡邊啓貴教授に聞いた。(聞き手 読売新聞メディア局編集部次長 田口栄一)
ルペン氏の公約、実現可能だったのか
今回のフランス大統領選の主役はルペン氏でした。もし彼女が当選していたら、反EU、反移民といった「より閉鎖的なフランス」を目指していたでしょう。治安も強化され、警察国家的な国になったかもしれません。
しかし、それが実現できたかどうかは別問題です。ルペン氏はEUからの離脱、共通通貨であるユーロからの離脱を盛んに主張していましたが、世論調査でEU離脱に賛成しているフランス人は約30%ですから、果たして国民投票に持ち込めたでしょうか。
移民に対する強い姿勢というのは、ある程度、国民にも納得してもらえるでしょう。でも、もしそれが可能ならオランド現政権も既に手をつけているはずです。オランド大統領は警察官の数を増やそうとしましたが、財源確保の問題もあり、十分にできませんでした。
ルペン氏が言っていたことはどれも非常に実現は難しく、実際にやろうとすると混乱は避けられなかったはずです。マクロン氏の当選は、39歳の若い大統領が誕生し、新しい風が吹いたという点が注目されますが、ルペン氏が大統領にならず、フランスや欧州の混乱が避けられたという点でも意味がありました。
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2017年05月09日 13時33分
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