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    社会

    NHKと民放、ネット同時配信めぐりバトル

    読売新聞メディア局編集部 中村宏之

    示されない受信料改革の方向性

    • 今年1月の就任会見で笑顔を見せるNHKの上田良一会長。どんな改革方針を打ち出すのか。
      今年1月の就任会見で笑顔を見せるNHKの上田良一会長。どんな改革方針を打ち出すのか。

     もうひとつ「コストとニーズ」の議論で忘れてはならないのが、受信料制度との整合性である。

     NHKの改革は、ネット配信だけではなく受信料、ガバナンスを含めた「三位一体」で改革することは総務省が常々言ってきたことで、高市総務相も国会答弁などでそうした認識を繰り返し強調している。諸課題検討会でも、有識者委員から「視聴端末前提でなく、視聴者の側に立っての議論が必要」などと、受信料制度との整合性をとるべきだとする指摘が挙がっている。

     ところが、NHKも総務省も、国民にとって関心の高い受信料について、改革の方向性すらいまだに示していない。ネット同時配信とのかかわりも「テレビの受信契約者には追加的な負担を求めない」というだけで、詳細は不明なままだ。しかし、ネット同時配信と受信料制度についてどのように整合性を図るか、きちんと制度設計してからでなければ、混乱は避けられない。

     例えば、こんな事例を考えてみよう。

    (1)大学生が親元を離れて一人暮らしを始めたとたん、NHKの受信契約を求められるが、スマホや携帯電話(ガラケー)の契約は親元で「家族割」などの形でまとめて行っているケースが大半だ。親が受信契約者なら、この大学生はネット配信で追加的な負担を求められない、という理解でよいのか。

    (2)仕事の都合で家族を残して単身赴任する場合、赴任先でNHKから別途契約を求められる(半額制度あり)が、ネット配信しか利用しないなら別途契約は不要、という理解でよいのか。

    (3)もし、一人暮らしの学生や単身赴任者がネット配信のみの利用なら別途契約は不要だとすると、今はワンセグ機能付き携帯でも受信契約の支払い義務が発生するというのがNHKの立場だが、この考え方は維持するのか。

     少し考えを巡らすだけでも、以上のようなケースや疑問が想起される。こうした問題をきちんと整理しないままだと「スマホなら受信契約は不要なのに、ワンセグ携帯は契約が必要」という複雑怪奇な現象まで起きかねない。ちなみにワンセグ携帯を巡っては、昨夏に地裁で「受信契約の根拠にならない」との判決が下り、NHKが控訴したため、今も係争中である。

     民放サイドも、放送コンテンツのネット活用には段階的に取り組んでいる。既にキー局を中心に共同ポータルのTVer(ティーバー)や日本テレビが主導するhulu(フールー)などを運用しているほか、地方局も配信プラットフォームにコンテンツを提供するなど対応を進めている。災害時の報道や注目されるスポーツイベントなどでは同時配信も試行している。十分な収益性が見込めるかを民放が常に見極めながら取り組んでいる現状をみても、NHKのみが拙速でネット同時配信に踏み出すことは避けるべきだろう。

     日本の放送体制は、戦後のラジオ放送の時代から公共放送のNHKと商業放送の民放の「二元体制」で進められてきた。その後、テレビ時代に入っても二元体制は引き継がれ、番組内容や放送技術など互いに切磋琢磨(せっさたくま)してきた歴史でもあった。ネット全盛時代となったいま、監督官庁である総務省には、法改正によりNHKに放送の常時ネット配信を実現させ、民放にも本格的に追随させることで「放送における二元体制を通信やインターネットの世界にも持ち込みたい」という思惑があるようにも見える。

     しかし、そうなるとネットの世界の自由度が大きく狭められるほか、ネットで展開するさまざまな活動に「放送並み」の義務が生じかねないなど、民放の自由なビジネス活動を阻害しかねないといった懸念は強い。ただでさえ地上波で2つ、BSで2つのチャンネルを持つNHKは18年12月以降、BSで4Kと8Kの実用放送が始まる予定で、いまも肥大化の一途をたどっている。

     通信、放送分野に詳しい西正さん(オフィスN代表)は、「視聴者に常時同時配信のニーズがどこまであるのか。そして何よりNHKは受信料のあり方との関係をどう考えているのか。こうした問題に関する議論を深めなければ国民の理解は得られず、拙速との批判は免れないだろう」と指摘している。

    プロフィル
    中村 宏之(なかむら・ひろゆき)
     読売新聞メディア局編集部次長。経済部などで長く国内外の経済報道にあたり、ロンドン特派員、ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より現職。主な著書・共著に『御社の寿命』『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』(いずれも中央公論新社)、『ドキュメント 金融庁vs.地銀 生き残る銀行はどこか』 (光文社) などがある。

    2017年05月18日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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