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    社会

    「赤ちゃんポスト10年」(5)生みの親 捜し求め

    読売新聞西部本社 赤ちゃんポスト取材班
     匿名で子どもを託せるこうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)。出自を知る子どもの権利が守られないという課題にどう向き合うのか。熊本市の慈恵病院でも意見が分かれてきた。


    手紙や写真 大事に保管

    • 「こうのとりのゆりかご」に続く入り口。人通りの少ない道路に位置していた=大原一郎撮影
      「こうのとりのゆりかご」に続く入り口。人通りの少ない道路に位置していた=大原一郎撮影

     5年前の大型連休、家族でキャンプに行った帰り道だった。「生みの親を捜そうと思う」。愛知県の会社員男性(25)が車の中で告げると、運転席の父親(65)はこう答えた。「捜しても見つからん」

     生後間もなく、デパートの通路で発見された。紙袋の中でタオルにくるまれていた。警察の捜査でも親は判明せず、戸籍法に基づき、発見地域の役所が名前を付けた。

     2歳8か月で乳児院から今の両親に託され、特別養子縁組をした。血がつながっていないことは、幼い頃に伝えられていた。

     思春期になると、生みの親に会いたいという思いが募った。どんな顔なのか、若かったのか、育てられなかった理由は……。頭の中を何度も駆け巡った。

     ただ、ルーツをたどるのは成人になってからというのが家族の決まりだった。キャンプに行ったのは男性が20歳の時。両親は初めて、男性が遺棄されたことを明かした。

     「遺棄されたことより、生みの親にたどり着けない事実の方が重かった」。手がかりを得ようと、戸籍に載っていた過去の住所を検索サイトに打ち込んでみたが、表示されたのは「名付け親」の役所だった。

     昨年末、母親(64)から1枚の紙を渡された。生みの親が書いた手紙の写しだった。「訳があって育てられないのです。どうかどうかこの子をよろしくお願いします」。B5判の便箋に7行の丁寧な文字がつづられていた。

     出自には触れられていなかった。「訳」が何なのか、疑問もわいた。それでも生みの親とつながるきっかけを初めて目にし、きれいな文字から「ちゃんと社会に出た人」と想像した。「自分を知る上で、手紙があってよかった」

    出自知る権利 どう保障

     匿名で子どもを託せるこうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)。出自を知る子の権利が守られないという課題は、開設当初から懸念されてきた。10年の運営の過程で、慈恵病院(熊本市)の中でも意見は分かれた。

     看護部長だった田尻由貴子さん(67)は「預けた人にはできるだけ接触を図って」と指示していた。子の幸せのためには、命を救うとともに、親の存在を把握できることが大切だと考えたからだった。

     一方、理事長の蓮田太二さん(81)は、「あくまで匿名で預かることを掲げ続ける必要がある」との立場だ。「子を手放すという罪悪感を抱える親は名前も顔もさらせない。匿名でなければ、子を別の場所に遺棄してしまう」と、その理由を説明する。

     看護師らの声かけを「匿名でしょ」と振り切り、立ち去る人もいた。抱きついて号泣し、事情を話し始める人もいた。聞き取ることができた子の情報は1人1冊のファイルにとじ、鍵付きのロッカーに保管されている。

     2015年度までに預けられた125人のうち、声かけなどで約8割は身元が判明した。ゆりかごの運営実態を検証する熊本市の専門部会は「子の人権、養育環境を整える上で、(預ける側が)最後まで匿名を貫くことは容認できない」と指摘。病院に対し、身元判明に向けてあらゆる努力を行うよう求めている。


     「ゆりかごに預けられなかったら、今のお父さん、お母さんとの暮らしはなかった。ゆりかごは僕の運命を変えてくれた」。里親のもとで育ち、自らの出自も理解している男の子は、屈託のない笑顔でそう語る。

     一方で、出自をたどる過程で見つかった生みの母親の写真をアルバムに挟み、預け入れた親族からのメッセージを大切に持ち続けている。

     「ごめんね。本当は一緒に暮らしたかった」

     改めて読み返した短いメッセージを、男の子はただ黙って見つめていた。

     ゆりかごの開設から10年。預けられた子どもたちの多くはこれから思春期を迎え、自らの境遇と向き合っていく。

     開設は正しかったのか。その答えはきっと、葛藤を抱えながら生きていく子どもたちの姿が示すことになる。(おわり)

    プロフィル
    赤ちゃんポスト取材班
     読売新聞西部本社の入社5年目から15年目の記者3人が担当。約半年間かけて慈恵病院の関係者や、こうのとりのゆりかごに預けられた子どもの養親らから話を聞き、赤ちゃんポストの先進地・ドイツでも取材を行った。


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    2017年05月19日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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