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    医療

    実は深刻「入院ストレス」…在宅医療への期待感

    医師、医療法人アスムス理事長 太田秀樹
     入院してみると、よくわかる。病院が患者にとって、決して安らげる場でないことが。ナースコールは夜も鳴り響き、部屋の扉を開け閉めする音や、医療器具などを運ぶ「ガラガラ音」は止むことがない。そんな中、注目を集めているのが在宅医療だ。機器の進化もあって、提供できる医療の幅が広がり、末期がん患者の予後が入院よりもすぐれているという報告もある。長年、在宅医療の普及に取り組んできた医師の太田秀樹氏が解説する。

    「病院でつらい治療はしたくない」

     栃木県小山市で、私が在宅医療を始めてから26年が()った。開業当時の1990年代初頭、日本は高齢化率が7%を超え、WHO(世界保健機関)が定義する高齢化社会になっていた。しかし、介護保険制度はまだ整備されていなかった。「医療や看護の“出前”があれば、ありがたいと思う患者や家族もいるだろう」――。在宅医療に取り組み始めたのは、そんな漠然とした思いからだった。

     その頃、在宅医療を依頼してきたのは、認知症(「痴ほう症」と呼ばれていた)の進行や老衰などで寝たきりの高齢者、脳性まひや脊髄損傷などによる重度障害者、そのほかに、病院での治療をあきらめたがん患者やその家族たちだった。「在宅医療」という言葉自体が、まだ一般的でななかった。

     自宅での「看取(みと)り」、つまり終末期医療を希望する患者や家族は、さらに少数派だった。「自宅で死なれては世間体が悪い」などと考える家族が、当時は少なくなかったのだ。

     しかし、90年代後半になると、高齢者医療のあり方について活発な議論が行われるようになった。一般の人たちの間でも、公的介護保険制度が話題に上るようになり、在宅医療という言葉が、徐々に世間に浸透していった。

     同時に、在宅での「看取り」を希望する患者や家族も増えた。最近では、当法人で在宅医療を受ける患者の70%~80%ぐらいが、「看取り」の時まで、在宅医療を中断することなく継続できるようになった。我々の在宅医療サービスにかける熱意は、開業当時と何一つ変わっていないつもりだが、社会全体が大きく変化したのである。

     患者たちも年齢を重ねた。在宅医療で老夫婦の介護をし、最期を看取った息子が、今は在宅医療の対象となっている。自転車で通院していた患者が、タクシーで通院するようになった。いずれは在宅医療となるだろう。「もう十分長生きしたから、病院で(つら)い検査や治療はしたくない。自宅で安らかに逝かせてほしい」。そんなニーズも増えてきた。

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    2017年05月31日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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