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    科学

    ビジネスに通じる「プレゼン術」は一流科学者に学べ

    読売新聞調査研究本部主任研究員 芝田裕一
     一流の科学者は、プレゼンテーションの達人だ――。象牙の塔にこもって学問の道を追究するだけでは、現代の科学者は務まらない。研究の狙いと成果を世の中にわかりやすく伝えることも大切だ。読売新聞東京本社が主催する「読売テクノフォーラム」や「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム」の企画・運営責任者として、6年間に100人を超える科学者の講演を聴いてきた調査研究本部の芝田裕一主任研究員が、ビジネス・スキルへの応用を視野に入れ、科学者たちによるプレゼン技術の奥義に迫る。

    「例え話」を多用…難しい事柄をわかりやすく

    • 難しい現象をわかりやすく説明する村山斉さん
      難しい現象をわかりやすく説明する村山斉さん

     ビジネスの現場でも求められるプレゼンテーションに際し、何より重要なことは、難しい事柄をわかりやすく説明する技術だ。そうしたテクニックで、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構長の村山(ひとし)さんの右に出る研究者はいない。

     村山さんは、宇宙の謎を探究する物理学者だ。筆者はここ数年で村山さんの講演を3回聴講したが、いつも会場は満杯だった。村山さんの講演は、「例え話」を多用する点に特徴がある。

     宇宙には「ダークマター」(暗黒物質)という物質が存在することがわかっている。村山さんは、「ダークマターの正体はわかっていない」としながらも、ダークマターのない宇宙では、星や銀河、生命の(もと)も生まれないと理路整然と解説する。そして、最後に村山さんは、予想外の例え話を聴衆に提示する。「ダークマターは、私たちのお母さんだった――」。そう唱える村山さんの話に、聴講者はびっくりしながらも大いに感心する。これが村山流プレゼンの真骨頂だ。

    「ニュートリノ振動」をアイスのフレーバーになぞらえ

     ダークマターだけではない。2015年のノーベル物理学賞で注目された「ニュートリノ振動」をも明快に説明する。ニュートリノは宇宙空間に大量に存在する素粒子で、「電子型」「ミュー型」「タウ型」の3種類がある。問題のニュートリノ振動とは、ニュートリノが別の種類に姿を変えるというたいへん難しい物理現象だが、村山さんはこれをアイスクリームのフレーバーになぞらえる。

     すなわち、「電子型」のニュートリノがピスタチオ味のアイスクリーム、「ミュー型」がストロベリー味のアイスクリーム、「タウ型」がチョコレート味……。宇宙には三つの味のニュートリノがあり、それぞれが大量に飛び回っている――と村山さんは解説する。「ストロベリーのフレーバーが、地球に飛んでくる間に、チョコレートのフレーバーになっちゃった。梶田さんはそれをつかまえたのです」。村山さんはそんな言い回しで、ニュートリノ振動の観測に成功して15年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章・東大宇宙線研究所長らの偉業を解き明かす。

     村山さんのプレゼンを聴いた科学技術振興機構(JST)の研究員は「たいへん難しい理論や現象が、何となくわかったような気になるのはさすが」と、比喩のうまさに舌を巻いていた。

     村山さんの発表スライドはカラフルで写真が多く、アニメーションも巧みに交ぜている。聞く人をひきつける工夫を常に意識しているのだ。中央公論新社は、その年最高の新書を選ぶ「新書大賞」を08年から毎年発表しているが、村山さんの著書『宇宙は何でできているか』(幻冬舎新書)は11年の大賞に輝いた。一般書を差し置いて、科学書が大賞を射止めるのは異例。わかりやすくて面白いプレゼンの技術が、執筆にも生かされているのであろう。

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    2017年06月23日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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