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    生活

    働き方改革に定年後の考え方を

    読売新聞メディア局編集部次長 中村宏之
     人事・キャリアコンサルタントの楠木新さんの中公新書「定年後」がベストセラーになっている。今年4月の発売以来、これまでで22万部になった。健康寿命が伸びているものの、先行き不透明感が強まる時代にあって、将来に不安を感じたり、何か一歩踏み出したいと考えたりする40代から60代前半を中心に幅広く読まれている。10月13日には東京・大手町の読売新聞ビル3階新聞教室で楠木さんを講師に招いた大手町アカデミア「人生後半戦のためのキャリアデザイン入門」も開かれる。講座を前に、楠木さんにあらためて「定年後」について聞いた。(読売新聞メディア局編集部次長 中村宏之)

    ――「定年後」が良く読まれているようですね。あらためてご執筆の動機は何だったのですか

     このテーマは多くの人の関心とニーズがあると思っていました。自分も47歳に体調を崩して長期休職しました。急に会社に行かなくなると、書店と図書館とスーパー銭湯以外に足を運ぶところがありません。自分がいかに会社にぶらさがっていたかを感じさせられました。このことは、いずれ定年退職すれば同じような状態になるのだとその時に感じました。結果としてそうした自らの経験がこの本を書く時に役に立ちました。またそうした立場で取材したものは、読者にも役立つだろうという思いもありました。

    ――実際に取材されてみて、どんな印象でしたか

     人それぞれだなあというのと同時に、生き生きとしている人は必ずしも多くないという印象でした。外から見たら、定年退職したら時間もたくさんあって、仕事もやらなくていい、悠々自適にできるのではないかと言う人もいますが、実態は必ずしもそうでない、ということかもしれません。

    ――健康寿命が伸び、昔と違って60歳で定年してもその先の人生は長いです。その期間をどう生きればよいのかというヒントを多くの人が楠木さんの本に求めているのではないでしょうか

     そうした面も大きいと思います。40代後半から60歳過ぎの読者が本書のメインターゲットですが、実際にはそれよりも若い層に買っていただいているみたいです。会社の仕事だけでは長い寿命を埋めきれないなとみなさんが思っていることが追い風になったのだと思います。

    ――それはやはり経済的な不安からなのでしょうか

     経済的な不安というよりは、むしろ、人とのつながりや定年後の居場所、自分の死に方、家族との関係など、そこが本当の不安ではないかということが本書の想定です。

    ――会社員なら、自分の定年はいつ来るのか予見できるイベントでもあります。そういう意味では、スケジュールをにらみながら対応するという面もあるのではないでしょうか

     40代以降は仕事も大変ですし、家族のために頑張らなければいけないということもあり、何かやりたいと思ってもなかなか難しいのは確かです。それでも先々のことを考えたら走り出した方がいいですよというメッセージを出したいなと思っています。50代で何らかの形で走り出しておいたほうがまず間違いなくいいだろうという実感はあります。その頃ならまだ会社に仲間がいますし、一人になってからではなかなか大変だというのが実感です。

    ――早めに複眼思考を持つべきということでしょうか

     会社勤めの方なら、会社中心の仕事は大事ですが、それだけにとどまらず、会社員としての役割のほかに、もう一つ何か役割や立場を持てるように50代のうちに考えた方がよいでしょう。そうしたことが定年後の準備に結果的につながります。自分で見つけるのは大変ですが、個人が立ち上がらないとなかなかできません。

     最近の働き方改革の動きも、主体が誰なのかわかりません。労働時間の上限規制などは国の仕事ですが、それ以外の部分は企業と社員がやらないといけないところです。しかし、そこには個人がどうすればよいかの視点が決定的に脱落しています。つまり、働き方改革といいながら「働かせ方改革」に終わっている。働き方の多様化の一つの副業にしても、個人としてどう副業をやっていけばいいのかという議論はほとんどなく、就業規則上どう認めるかというレベルで終わっています。この「定年後」という本に即して言えば、定年後から見た働き方改革、つまり、働き方が定年後も生きるようなものを考えないといけないのではないかと思います。

    ――企業の定年は60歳、延長しても65歳までという会社も多いですが、まだまだ能力のある人を60歳になったというだけで組織から外すシステムというのは今の時代に合っていないのではないでしょうか。

     同感です。社員が定年を迎えた後の雇用延長は、大半の企業で恩恵的に実施しているのが実情です。本質的な問題は、60歳で定年して、健康で仕事の能力があって人柄もいいのに働く場所がないというシステムの貧困さです。その背景にあるのは日本の企業が必ずしも能力やスキルで人を判断しないという風土です。こうした価値観にはいい面もありますが、会社の組織を出たとたん、働く場所がなくなってしまうという副作用が生じています。定年後も有為な人材の活用は求められていると思いますし、今後そうしたことがビジネスにもなっていくのではないかと考えます。

    ――中公新書の前著、「左遷論」にも通じる面があると思いますが、個人の心の持ちようや、個人としてしっかりすることの大切さを本書からも感じました。

     もう少し個人が自立するという意識が広がることが大切だと思います。前にも述べましたが、現在の働き方改革の流れは、個人が主体となってどうすべきか、という議論が欠落しています。私の立場からいえば、「組織にいる自分」に加えて、「もう1人の自分」を作ってゆきましょう、というのが一つの解答になると思います。組織中心の働き方というのはいい面もありますが、「全部預けていたら危ないよ」という側面もあるのです。

     本書では、「定年後の枠組み」について書いたので、次はどうそれを具体的な働き方に結びつけてゆくか。今後は、副業をどう本業と結びつけてゆくのか、そのテクニックなど「戦術・戦略」について自分の体験も踏まえて書いてみようと思っています。

    プロフィル

    楠木新(くすのき・あらた)

     1954年、神戸市に生まれる。京都大学法学部卒業。大手生命保険会社に入社し、人事・労務関係を中心に、経営企画、支社長等を経験。勤務と並行して、大阪府立大学大学院で経営学修士号(MBA)を取得。関西大学商学部非常勤講師を務め、「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演に取り組む。2015年、定年退職。現在、楠木ライフ&キャリア研究所代表、神戸松蔭女子学院大学非常勤講師。著書に『人事部は見ている。』『経理部は見ている。』(ともに日経プレミア新書)、『左遷論』『定年後』(ともに中公新書)など。

    開催日時 10月13日(金)19時~20時45分(開場18時30分)
    会場 読売新聞ビル3階新聞教室(東京都千代田区大手町1-7-1)
    受講料 5400円(消費税・中公新書『定年後』書籍代を含む)

    ※お申し込みはこちらから⇒http://kusunokiarata.peatix.com

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    2017年09月27日 09時15分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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