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    国際

    トランプvs米メディア…壮絶バトルの裏側

    読売新聞調査研究本部主任研究員 大内佐紀

    「原理も哲学もない」トランプ氏

    • ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニスト、ジェリー・サイブ氏
      ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニスト、ジェリー・サイブ氏

     ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニスト、ジェリー・サイブ氏は1980年代のレーガン政権以降、歴代政権を取材している。そのベテランが「ワシントンの今の雰囲気は前例がない」と断言する。「経験則から、こう物事が動くだろうと予想すると、必ず逆になる。経験と知識の積み重ねが報道に役立たない」。その理由について、サイブ氏は「トランプ氏には原理も哲学もない。今日やることと明日言うことが異なるのは日常茶飯事。原則がないから一貫性がない」と分析する。

     予見できないがゆえに、トランプ大統領とその政権に関するニュースへの関心は高い。部数減に苦しんでいた主流派メディアは、有料デジタル版の購読者が軒並み増えているという。例えば、ニューヨーク・タイムズ紙は2017年7月、電子版の購読者が200万人の大台を超えた。前年に比べて23%増の数字だという。ワシントン・ポスト紙も、電子版購読者が100万人を超えた。「トランプ氏は最大のニュースだ」とポスト紙のキャメロン・バー編集局長は話す。

    • トランプ政権の取材方法について語るワシントン・ポスト紙のデビッド・ナカムラ記者(左)とキャメロン・バー編集局長
      トランプ政権の取材方法について語るワシントン・ポスト紙のデビッド・ナカムラ記者(左)とキャメロン・バー編集局長

     大統領に連日のようにフェイク呼ばわりされる影響について、バー編集局長は冷静だ。「批判は、しょせんは言葉。我々は彼の言葉より、我々の報道に対し、彼がどう行動するかを注視している」。例えば、フリン前大統領補佐官(安全保障問題担当)がロシアと不適切な接触をしていた疑惑をポスト紙が報道してまもなく、トランプ氏はフリン氏をクビにした。

     一方で、影響は小さくないとの見方も強い。メディアに詳しいトム・ローゼンスティール米報道機関研究所所長は「実のところ政治家の言葉の力は侮れず、ましてや大統領の言葉はこれまで重かった。トランプ大統領が連日、フェイク、フェイクと言い続ければ、そうかなと思う人も出てくる。まさにこれこそ、世界中でポピュリスト(大衆迎合主義者)が使っている手法だ」と指摘する。

    なぜ大統領のフェイクがまかり通る?

     トランプ大統領の発言に事実誤認や意図的な虚偽があることは、疑いの余地はない。そのウソをウソと認識しない傾向が一部に見られることも、間違いないだろう。なぜ大統領のフェイクがまかり通るのか。

     ローゼンスティール氏によると、米国には三つの全国紙、約1300の地方紙、六つの全国ネット・テレビ局、約900の地方局がある。それに加え、ネット上で「ニュース」を掲げるサイトが約5万もあるという。こうしたサイトの代表格がブライトバート・ニュース。トランプ氏に影響力を持ちながら、首席戦略官の任を解かれたスティーブン・バノン氏が運営するサイトだ。「ニュース」と名が付くが、事実関係を伝えるというよりは、右派的な論評を掲載するサイトで、トランプ氏を大統領に押し上げた層が多数、閲覧している。

     ワシントン郊外のバージニア州を拠点に、より過激な右派サイトを運営するジャレド・テイラー氏は「人種により平均的知性は異なり、黒人とヒスパニックは犯罪率も高い。米国は白人のキリスト教徒のための国であり、このまま白人の数が減っていくことは許し難い」と主張してはばからない。テイラー氏が27年前に始めた「アメリカ・ルネッサンス」は、会報を印刷で配布していた時代の部数が4000部程度だったのに対し、7年前にネットに切り替えたところ、今は約40万人に読まれているという。「トランプ大統領は紳士ではなく、人間としては嫌いだが、移民制限やメキシコとの国境に『壁』を造るなど、政策は良い」と、こちらも大統領を支持している。

     長年、通信社や新聞社で記者を務めた経験があるクレッグ・ハインズ氏は「現在、『ニュース』はあらゆるところから断片として入ってくる。きちんとした報道機関は『事実』を伝えることにこだわるが、そうでないサイトが多すぎる」と指摘する。

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    2017年10月06日 12時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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