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    文化

    カズオ・イシグロがノーベル文学賞に選ばれた理由

    京都外国語短期大学教授 荘中孝之

    物腰柔らかでユーモラスな人柄

    ――ノーベル賞の授賞理由の一節「感情に強く訴える小説で世界とつながっているという我々の幻想の下に隠された闇を明るみに出した」。わかりやすく言うとどういうことでしょうか。

    • 自分の作品などについて語るイシグロ氏(2011年、東京都内で)
      自分の作品などについて語るイシグロ氏(2011年、東京都内で)

     例えば『わたしを離さないで』という作品があります。主人公は、ただ臓器を提供するだけのために生み出された「クローン」という存在です。結局は短い人生をただ生きるだけなのですが、我々にも無限に時間があるわけではない。クローンの役割は決まっているのですが、我々も自分の居場所から大きく踏み出していけるわけではないのです。結局、クローンの置かれた状況は、我々の置かれた状況とそんなに大きく違うわけではない。変わらないんです。普通の人間の人生のメタファー(隠喩)になっている。そういうことではないかと思います。


    ――イシグロ氏はどんな人物でしょう。

     いつも黒いスーツ。物腰も穏やかで、若い頃から人気作家として有名になっていった面もあるので、メディア慣れもしている。常に落ち着いて堂々としています。明晰(めいせき)でわかりやすい話し方をする一方で、ユーモアも忘れない人でもあります。


    ――人柄が文体に出ているのでしょうか。

     そうですね。落ち着いた物腰がいろんな作品に表れていると思います。一方で、イシグロ氏は若い頃はミュージシャンを目指し、ヒッピーのような生活を送っていたこともあります。作品によってはかなり型破りな要素も入っていますし、喜劇のような描き方もしている。様々な要素を併せ持っていると思います。4作目の『充たされざる者』はものすごいタイプの作品で、どこまでが現実でどこからが非現実、夢なのかがわからない迷宮のような作品です。そういう要素も確実に持っていて、イシグロ氏が言うには「自分にはドストエフスキー的な要素もあるんだ」と。


    ――カズオ・イシグロという名前は日本人的だが、今は英国籍。英国ではどうとらえられているのでしょうか。

     初期の作品は(英国人にとって)よくわからないところもあったと思いますが、3作目の『日の名残り』を「超イギリス的」な作品に仕上げ、イギリス最高峰の文学賞と言われる「ブッカー賞」も受賞し、押しも押されもしない大作家になったと思います。


    ――村上春樹氏との関係について。記者会見でも「村上春樹氏より早く(ノーベル賞を)もらって申し訳ない」と言っていました。

     何度か対談しているし、個人的な親交もあるようです。さらに、お互いに音楽好き、ジャズ好きでもあるので、「ジャズの話を何時間もした」というエピソードもある。お互い同時代の作家として認め合っている部分もある。村上氏もイシグロ氏の作品が出るとすぐに手に取って読んでしまうと言っています。リスペクトし合っています。


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    2017年10月06日 17時42分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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