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    国際

    史上最高値「ダ・ビンチの名画」と中東を結ぶ謎

    読売新聞調査研究本部主任研究員 大内佐紀
     1枚の油絵に、日本円にして約500億円の買値――。巨匠レオナルド・ダ・ビンチの「サルバトール・ムンディ(救世主)」が11月、絵画史上の最高値で落札された。その本当の購入者は、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子であるとの見方が強まっている。性急な内政改革やイラン、カタールとの対決姿勢でニュースの中心となっている皇太子が、なぜ、この世界的なアートを手中に収めようとしたのか、その意図に関心が集まっている。読売新聞調査研究本部の大内佐紀主任研究員が迫った。

    最後の一声で30億円超もアップ

    • 「サルバトール・ムンディ」が約500億円で落札され、拍手する入札関係者ら(AP)
      「サルバトール・ムンディ」が約500億円で落札され、拍手する入札関係者ら(AP)

     レオナルド・ダ・ビンチ(1452~1519年)の現存する絵画は20にも満たないとされる。このうち唯一、個人が所蔵していた「サルバトール・ムンディ」が出品されたのは、ニューヨークの大手クリスティーズでの競売だった。縦65.6センチ、横45.4センチのキリストの肖像画に、同社は「1億ドル台」の値がつくことを想定していたが、11月15日のオークションでは、これを大きく上回る4億5000万ドルの値がついた。アート業界関係者を特に驚かせたのは、最後の「一声」で買値が一気に約3000万ドル(日本円で約34億円)も引き上がったことだ。関係者の驚愕(きょうがく)の中、競売終了を告げる木づちが鳴り響いた。

     これまでオークションで売買された絵画の最高値は約1億8000万ドルだ。同じくクリスティーズの競売に2015年にかけられた、ピカソの「アルジェの女たち(バージョン(オー))」の落札額だ。今回は、その約2.5倍の値がついた。

     クリスティーズの競売には電話やインターネットでも参加できる。本人が希望しない限り、落札者は明らかにされない。

     いったい誰が1枚の絵に、500億円ものお金を出そうというのか。

     「ロシアのファンドじゃないか」「いや、中国の新興財閥だろう」「中東にもマネーはあるが、描かれているのがキリストその人だ。中東はあり得ないのでは?」――。パリ在住の展覧会プロデューサー今津京子氏は、「アート関係者の間で、『誰が?』をめぐるうわさが飛び交った」と振り返る。

     半月後の12月6日、1本のツイートで業界は再び騒然となった。アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビに11月開館したばかりの美術館「ルーブル・アブダビ」が、「サルバトール・ムンディがやってくる」と公式ツイッターで発信、同館での展示を“予告”したのだ。

     これと同時に、絵画を落札したのは、サウジアラビアのバデル・ビン・サウドという王子だという説が一気に広まった。

     世界有数の産油国サウジアラビアには、約5000人のプリンスがいるとされる。バデル王子はいってみれば、王位継承にからむことはない末端の一員だ。ただ彼は、同国で権勢をふるうムハンマド・ビン・サルマン皇太子のビジネスパートナーとして、一部に名を知られていた。

     ウォール・ストリート・ジャーナルなど米紙は12月7日付で一斉に、バデル王子は代理人に過ぎず、「サルバトール・ムンディ」の真の購入者はムハンマド皇太子だ――と伝えた。ムハンマド皇太子はUAEの皇太子と極めて親密だ。ここに「ルーブル・アブダビ」につながる糸が見えてきた。

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    2017年12月29日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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