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    文化

    「魔法メイク」で日本人初受賞 米アカデミー賞を読む

    読売新聞調査研究本部主任研究員 福永聖二
     米映画界最大の祭典、第90回米アカデミー賞の発表・授賞式が3月4日(日本時間5日)、ロサンゼルス・ハリウッドのドルビーシアターで行われた。式では、「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」で、主演ゲイリー・オールドマンのメイクを担当した辻一弘さんがメーキャップ・ヘアスタイリング賞に輝いたことが大きなニュースとなったが、話題はそればかりにとどまらない。アメリカ映画界のトレンドの変化に着目しながら、節目の年の式典を振り返った。

    4冠に輝いた「シェイプ・オブ・ウォーター」

    • 作品賞、監督賞に輝いた「シェイプ・オブ・ウォーター」(左はヒロインのサリー・ホーキンス) (C)2017 Twentieth Century Fox
      作品賞、監督賞に輝いた「シェイプ・オブ・ウォーター」(左はヒロインのサリー・ホーキンス) (C)2017 Twentieth Century Fox

     米アカデミー賞最大の栄誉とされ、世界中の映画関係者が注目する作品賞は、ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」(東京・TOHOシネマズ新宿などで公開中)に輝いた。半魚人のような不思議な生物と、声が出せない女性の恋を描くファンタジー。今回、最多の13部門にノミネートされ、作品賞に並ぶ監督賞の2大タイトルに輝き、さらに美術賞と作曲賞も合わせて計4部門を受賞した。

     デル・トロ監督は、まさに興奮した様子で喜びを語った。「スティーブン・スピルバーグ監督が言いました。もしオスカー(アカデミー賞の像)を受賞したら、レガシーの一部になるんだ。誇りに思いなさい、と。本当に誇りに思います。この賞を、状況を変えようとしている若者たちにささげます。メキシコで子ども時代を過ごしていたころは、こんなことが起こるなんて想像もできませんでした。しかし、実現したんです。夢を見ている人たち、ファンタジーを使って世界で起きている現実について語りたいという人たち。ドアを開いて中に入ってきてください」。日本でも3月1日から公開が始まったばかりで、アカデミー賞効果によって観客が増加することが期待されている。

     作品のストーリーを紹介しよう。時は、アメリカなどの資本主義諸国とソ連(現ロシア)などの共産主義諸国が激しく対立していた冷戦まっただ中の1962年。幼いころのトラウマで声を出すことができないイライザは、米政府の極秘研究所で清掃員として働いている。ある日、研究所に南米のアマゾンから半魚人のような不思議な生物が運ばれてくる。興味を持ったイライザは、謎の生物が厳重に隔離されている部屋に何度も忍び込み、やがて手話で会話を交わすようにまでなる。アマゾンで神としてあがめられているこの生物には、知性があったのだ。その身体機能を調べることで、ソ連にリードできると考えた軍人のストリックランドは、研究班に生体解剖を指示するが……。

     「シェイプ・オブ・ウォーター」は、このようにファンタジー色あふれる作品で、ミュージカル的な要素も備えている。また、美術賞を獲得したことでも分かるように、隅々まで精緻に構成されたセットが非常に美しく、映像も幻想的だ。世界3大映画祭の一つであるベネチア国際映画祭でも昨年9月、最高賞の金獅子賞に輝いた。

     イライザを演じているのは、ヒット作「パディントン」(2014年)と続編「パディントン2」(17年)のブラウン夫人役で知られるサリー・ホーキンス。「ブルージャスミン」(13年)でアカデミー助演女優賞候補になり、今回は惜しくも受賞は逃したものの、主演女優賞候補になっていた。決して美人ではないが実力派で、「シェイプ・オブ・ウォーター」ではヒロインをとてもキュートに演じている。

     「シェイプ・オブ・ウォーター」の作品賞受賞は、長きにわたるアカデミー賞史上、画期的な出来事だ。大の怪獣映画ファンとして知られるデル・トロ監督による「少々変わったモンスター映画」とも言え、従来のアカデミー賞では候補になることすら難しかったジャンルの一作だからだ。

     今回の授賞式ではまた、黒人男性が白人の恋人の実家に監禁される恐怖を描いた「ゲット・アウト」(主な上映は終了したが、横浜ニューテアトルなどで上映中)も作品、監督、主演男優、脚本の4部門で候補となり、脚本賞に輝いた。

     恐怖映画が技術部門以外の賞を受賞したのも極めて珍しい。アカデミー賞に限らず、著名な国際映画祭や各種映画賞では、文芸作や社会派作品が重視される傾向が強く、ファンタジーやスリラー、コメディー、SFなどのエンターテインメント作品は、一段低く見られがちだった。今年で90回という節目を迎えたアカデミー賞は、こうしたこれまで「差別」されてきたジャンルにも光を当て、大きく幅を広げた形となった。

    2018年03月07日 16時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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