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    経済

    「医者任せ」が招く危機…医療制度改革の“処方箋”

    三菱総合研究所主任研究員 奥村隆一
     健康診断でリスクを指摘されても、アルコールや喫煙、高コレステロールの食事をやめられない人がいる。「いざとなったら病院へ行けばいい」と大船に乗ったつもりなのかもしれないが、心配なのは個人の健康だけではない。膨らみ続ける国の医療保険費は、次の世代に残す大きな負担でもあるのだ。超高齢化社会、日本の医療制度をどう改革すべきか。三菱総合研究所(東京)の主任研究員、奥村隆一氏が提言する。

    「3分診療」というけれど…

     病院でもらった薬を、一部飲み忘れて余ってしまい、「同じ症状が出たときに使えるだろう」と薬箱にしまっている人は多いのではないか。かく言う私もその一人である。

     とはいうものの、もちろん“賞味期限”など素人にはわからないから、仮に同じ症状の病気にかかった場合でも服用する際は少し心配になる。結局、それらの多くを捨ててしまうことになる。

     患者が服用しない、このような薬は「残薬」と呼ばれ、在宅で治療を続けている75歳以上の高齢者に限定しても、そのロスは年間475億円にのぼるとの推計がある。残薬については「飲み忘れ」などの理由が多くを占めるとの調査結果もあり、国民全体であれば、一体いくらの無駄が発生しているのか見当もつかない。

     日本は国民皆保険制度の下、一定の自己負担で、どの病院でも選んで自由に医療を受けることができる国である。「3時間待ち3分診療」などと、その使い勝手の悪さが批判されることもあるが、風邪などの軽い病気で何日も待たされる国もあることを考慮すると、受診のハードルは低い部類に入るのではないだろうか。

    医療保険制度はすでに破綻状態?

     サラリーマンの医療費自己負担が三割となったのは2003年。それでも米国などに比べ、低い負担で気軽に医療が受けられる日本の医療制度は、国民にとって一見、良いものに映る。しかし、それはこの制度が未来永劫(えいごう)、持続するのであれば、との前提がつく。

     1990年度に11.6兆円だった社会保障にかかる公的支出は2017年度には32.5兆円にまで膨れ上がった。一方、同じ期間に、国債などの発行による公債金は5.6兆円から34.4兆円へと増加した。他の費目では歳入も歳出もあまり変化はない。社会保障関係費の負担増に対応するように借金を増やす構造が透けて見える。まさに「自転車操業」である。

     そして、社会保障関係費32.5兆円のうち最も多くを占めるのは、医療保険の維持にかかる費用の11.8兆円である。

     公債金は将来の納税者が支払うことを約束させられた国民の借金であり、その対象には現在まだ生まれていない「未来の国民」も含まれる。いつか生まれて、成人して、納税者になった時に利用する医療サービスの公費負担の一部は、さらにその後に生まれる子どもたちにも返済の義務が生じる。自己負担と保険料だけでは成り立っていない今日の医療保険制度は、すでに破綻しているとみなすこともできるのではないか。

     現在の医療費の額でも帳尻が合っていないのに、今後40年間さらに増え続け、2060年には67兆円に到達する見込みである。社会保障はお金が無尽蔵に政府から出てくる魔法の仕組みではない。お金の使い道を効果的にしたり、負担の仕方を見直したりといったことに私たちはもっと関心を持ってよいはずである。

    2018年03月12日 16時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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