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    国際

    元大統領逮捕、韓国「積弊清算」の底流にあるもの

    新潟県立大学教授 浅羽祐樹
     韓国・ 文在寅 ( ムンジェイン ) 政権が進める「積弊清算」の下で、また一人、大統領経験者が逮捕された。収賄などの疑いで今月22日に逮捕されたのは、 李明博 ( イミョンバク ) 元大統領。大統領経験者の逮捕は4人目である。繰り返される逮捕劇に対しては、政治報復との批判もあるが、それだけでは今起きていることの全体像は理解できない。「積弊清算」の底流にある考え方を知り、韓国社会の変化に目を凝らすことで、何が見えてくるのか。韓国情勢に詳しい新潟県立大学教授の浅羽祐樹さんに寄稿してもらった。

    「法」よりも「国民情緒」を重視?

    • ソウル市内の自宅から拘置所に向かう車に乗り込む李明博元大統領。約110億ウォン(約11億円)の賄賂を受け取ったとして、収賄などの疑いで逮捕された(ロイター)
      ソウル市内の自宅から拘置所に向かう車に乗り込む李明博元大統領。約110億ウォン(約11億円)の賄賂を受け取ったとして、収賄などの疑いで逮捕された(ロイター)

     李明博元大統領も収賄などの疑いで逮捕された。朴槿恵(パククネ)前大統領が弾劾・罷免、逮捕されてから1年しかたっていない。

     2人の元国家元首が同時に収監されているのは、金泳三(キムヨンサム)政権による「歴史の立て直し」「軍事政権期の清算」の下で、1995年に全斗煥(チョンドゥファン)元大統領と盧泰愚(ノテウ)元大統領が逮捕されて以来である。両氏はそれぞれ大法院(最高裁)で無期懲役と懲役17年を宣告され服役したが、逮捕から2年後に特別赦免された。懲役30年が求刑された朴前大統領は、来月6日にようやく1審判決を迎える。

     韓国が民主化して以来30年、7人の大統領が選出されたが、退任後はいずれも本人や家族が司直の手に委ねられた。「文民大統領」を誇った金泳三氏は、一民間人でありながら「小統領」として権勢を振るった次男が任期末に電撃逮捕された。

     政権が保守から進歩(左派)系に代わった後も、金大中(キムデジュン)氏の3人の息子全員が罪に問われた。盧武鉉(ノムヒョン)氏は兄が逮捕され、妻や自分も取り調べを受け、逮捕が迫る中で、裏山から身を投じ、捜査はそれで打ち切りになった。

     これら全てが現職大統領から何らかの便宜を得ようとする贈収賄に関連するもので、権限が大統領に集中する政治制度と、血縁・地縁・学閥が重視される縁故主義が結託した恩顧主義の結末に他ならない。そこには、軍人・文民、保守・進歩の差はない。

     文在寅大統領は昨年5月の就任以来、民主化後もなお残る「積弊の清算」を最大の国政課題として掲げている。朴槿恵・李明博両氏の逮捕はその一環であるが、最大野党の自由韓国党からは「前任者殺し」「政治報復」であるとして猛烈に非難されている。

     韓国民の間でも支持政党によって見方に差があるものの、罪を犯せば誰でもそれ相当に裁かれるという「法の下の平等」(韓国憲法第11条第1項)がようやく実現されつつあるという評価でおおむね一致している。従来、「有銭無罪、無銭有罪(金があれば無罪、なければ有罪)」と揶揄(やゆ)されたが、検察や裁判所のあり方には国家に対する国民の信頼がかかっている。

     本来、不正が起きないことが「正しい」が、実際は起きてしまった。本来、独立を保つべきだったのに、実際は日本の植民地になってしまった。本来、独立後に「親日派」を清算すべきだったのに、実際は彼らを闊歩(かっぽ)させてしまった。

     こうした「本来あるべき姿」と「実際に起きたこと」との決して埋まらない落差に対する諸々の情感が「(ハン)」である。そこで、せめて事後的にもその落差を「正そう」とするのが「過去清算」であり、「恨解(ハンプリ)」である。ここには、不正が見逃されるよりも「遅れて来る正義の方がマシ(Justice is done even belatedly)」であるが、「あまりに遅れた裁きは正義の否定に等しい(Justice delayed is justice denied)」し、そもそも不正が起きないことに対する渇望が根底にある。

    2018年03月29日 10時01分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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