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    国際

    シリア攻撃、一層遠のいた北朝鮮の「核放棄」

    龍谷大学教授 李相哲
     米トランプ政権はシリア時間の今月14日未明、英国やフランスとともに、アサド政権に対する軍事攻撃を実施した。米国などはシリア内戦でアサド政権軍が市民らを化学兵器で殺傷したと断定、制裁として化学兵器関連施設3か所を空爆した。核・ミサイル開発で米国と対立する北朝鮮は、今回のシリア攻撃をどう見たのか。龍谷大学の李相哲教授に聞いた。(聞き手・読売新聞メディア局編集部次長 田口栄一)

    「核は捨てない」意思を強めた理由とは

    • 14日未明、シリアの首都ダマスカス上空で確認されたミサイル。米国は英仏とともに、アサド政権に対する軍事攻撃に踏み切った(AP)
      14日未明、シリアの首都ダマスカス上空で確認されたミサイル。米国は英仏とともに、アサド政権に対する軍事攻撃に踏み切った(AP)

    ――米英仏によるシリア攻撃は、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長にどのような心理的影響を与えたと思うか。

     「核は絶対捨てないという意思をさらに強めたのではないだろうか。北朝鮮が米国の非核化要求を受け入れなかったら、シリアのように攻撃されるから、米国の要求を受け入れるのではないかという見方もあるようだが、そのような可能性はほぼないと考えている。

     まず、北朝鮮が非核化にすんなり同意してしまえば、次に世界の目は北朝鮮が持つ化学兵器に向けられる。トランプ政権が民間人に化学兵器を使ったとしてアサド政権に対する攻撃に踏み切ったのは、金正恩氏に対する警告の意味もあることは間違いない。

     米国が空爆したシリアの首都ダマスカス近郊のバルゼにある研究施設『シリア科学研究調査センター』には、北朝鮮の技術者たちが滞在し、働いていた。ここは化学兵器製造が疑われている場所だ。

     国連の北朝鮮制裁委員会が今年初めに発表した資料では、2012年から17年までの間に、北朝鮮は海上ルートを通じて、シリアとの間で化学兵器製造に関連する禁輸品の取引を少なくとも40件行っている。北朝鮮が今まで技術面でシリアの化学兵器製造に手を貸していたのは公然の秘密だ。

     また、16年8月には北朝鮮ミサイル技術者たちがシリアを訪問し、働いているという情報もあった。米国の上院議員の多くは、トランプ大統領に対し、シリアと北朝鮮のコネクションを断ち切るよう勧告してきたが、今のところ、北朝鮮に対しては行動を取らず、まずはシリアを空爆した。次は北朝鮮と誰もが思うはずだ。

     金正恩氏が非核化にすんなり同意してしまえば、次に生物・化学兵器の破棄を迫られるのは火をみるより明らかだ。生物・化学兵器に注目が集まるのを避けるためにも、核問題を防波堤にする方が得策であると判断するだろう。

     加えて北朝鮮は、核兵器を放棄すれば間違いなく、シリアのようにいとも簡単に攻撃されると思うから、簡単に核を放棄することはない。北朝鮮の官営メディアは度々、イラクやリビアをアメリカに『だまされた失敗例』として挙げ、『帝国主義者たち』への警戒を呼び掛けている。イラクは核を持たなかったから米国に侵攻された、リビアは核を放棄してしまったから政権が倒され、指導者が殺されたという考え方だ。

     北朝鮮は今回のシリア攻撃についての公式見解を出していないが、(もし出すなら)おそらく米国を非難し、自衛のための国防力の強化を呼びかける内容となるだろう」

    ――北朝鮮はどれぐらいの生物・化学兵器を持っているのか。

     「米中央情報局(CIA)の推定によれば、北朝鮮は2500トンから5000トンの化学兵器を持っている。北朝鮮は関与を否定しているが、17年2月、金正恩氏の異母兄である金正男(キムジョンナム)氏が滞在先のマレーシアで暗殺された際には、VXガスが使われた」

    2018年04月17日 18時06分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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