文字サイズ
    国際

    「アンガージュマン」再び…マクロン大統領の挑戦

    東京外国語大学大学院教授 渡邊啓貴
     フランスのマクロン大統領に関する本がこの3月、相次いで日本で翻訳、出版された。フランスが直面する課題は、産業の競争力強化や教育の立て直しなど、日本と重なる部分が多い。そうした課題にマクロン氏がどう取り組もうとしているのか。答えは、彼が繰り返し使っている「アンガージュマン」(社会参加)という言葉の中にありそうだ。東京外国語大学大学院総合国際学研究科の渡邊啓貴教授に、マクロン氏率いるフランスがどこに向かっているのかを聞いた。(聞き手・読売新聞メディア局編集部次長 田口栄一)

    マクロン本、相次いで邦訳

    • ブリジット夫人(左)と手を組んで歩くマクロン大統領(AP)
      ブリジット夫人(左)と手を組んで歩くマクロン大統領(AP)

     ――マクロン大統領に関する本が3月、日本で相次いで出版された。ジャーナリストのアンヌ・フルダ氏が書いた『エマニュエル・マクロン フランス大統領に上り詰めた完璧な青年』(プレジデント社)と、マクロン氏自身が書いた『革命 仏大統領マクロンの思想と政策』(ポプラ社)だ。この2冊を読んでどんな感想を持ったか。

     「マクロン氏が大統領選の選挙期間中に本国フランスで出版した『革命』は、ある種、選挙公約的なものだ。これを読むことで、今のマクロン氏の政策の出発点、根拠がよくわかる。フルダ氏の『エマニュエル・マクロン』は、伝記として読む分にはとてもいいと思うが、主観がだいぶ入っているので、面白い反面、客観的なマクロン評としてはどうかなと思うところもある」

    2人の女性から受けた影響

     ――よく言われているように、マクロン氏は2人の女性から大きな影響を受けた。祖母と、大恋愛の末に妻となった24歳年上のブリジットさんだ。

     「マクロン氏が祖母のジェルメーヌ・ノゲス(マネット)さんから受け継いだのは、人文的な素養だ。フランスでは日本以上にこういうものに対する関心が高い。例えば、ミッテラン元大統領は文筆家として評価されていた。第2次世界大戦の英雄であるドゴール元大統領も文筆家で、彼の大戦回顧録はベストセラーになった。マクロン氏もそうした伝統を引き継ごうという意識が大変強いように思う。

     祖母の母親、マクロン氏から見れば曽祖母は文字が読めず、曽祖父もなんとか文字が追える程度だった。末っ子の祖母だけが初等以上の教育を受けることを許され、刻苦勉励して中学の教師となった。地方の知識階級にはい上がったわけだ。

     マクロン氏は、その祖母のところで本を読ませてもらったり、クラシック音楽を聞いたりという、19世紀的なイメージで描かれた知的生活を送っていた。パリのような大都会の人から見ると古臭い感じもするが、アミアンというフランス北部の地方都市で育ったマクロン氏にとっては、吸収するものが多かったと思う。

     奥さんのブリジットさん、男女の問題としてはよくわからないところもあるが、この人がマクロン氏を精神的に支えたことは確かだと思う。マクロン氏は高校時代、夫も子どももいる女性教師のブリジットさんと恋愛関係になった。日本なら『村八分』にされるか、駆け落ちして人里離れた村で暮らすしかない。2人とも一生を棒に振ってもおかしくないようなスキャンダルだった。

     実際に『村八分』のようなものもあったのだと思う。マクロン氏は高校の最終学年、パリの名門高校に転校した。フルダ氏の本には、マクロン氏の両親はもともと彼をパリで学ばせる予定だったと書かれているが、おそらく周囲の目から遠ざける意味もあっただろう。

     マクロン氏はエコール・ノルマル・シュペリウール(高等師範学校)に入りたかったのだが、受験に2回失敗。にもかかわらず、パリ政治学院、ENA(国立行政学院)に入ることができた。マクロン氏にはそれだけ能力があったということだが、この間、ブリジットさんがずっと彼を支え、ものの考え方にも強い影響を与えた」

    2018年04月30日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP
    ハウステンボス旅行など当たる!夏休み特集