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ドゥーツ Deutz(下)
マドンナをとりこにした「アムール・ド・ドゥーツ」

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たおやかで背筋の伸びた「アムール・ド・ドゥーツ」
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「アムール・ド・ドゥーツ」のモチーフとなったキューピッド像
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マーケティングの重要性を主張するブロ氏
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時代の雰囲気を伝える応接間
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特別な体験を味わえる「キュヴェ・ウィリアム・ドゥーツ ロゼ」
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 シャンパーニュ地方はフランスで最も裕福なワイン産地と言われる。グランクリュ(特級)の畑を抱える村の建物は、造り手はもちろん、ブドウ栽培農家もかなり立派だ。ブルゴーニュやロワール地方と比べても、明確に豊かな印象を与える。

 ドゥーツの広報ディレクターであるアルノー・ブロ・ド・コメルス氏は「ブドウ買い取り価格はシャンパーニュが最も高い。1キロ当たり平均5ユーロ(1ユーロ=135円)。これに対して、スペインのカバは30サンチームです。その差がボトルの価格差にも反映している。ブドウの価格が高いのは長い伝統と畑の地価が高いから。グランクリュの畑が売りに出たら、1ヘクタール当たり50〜100万ユーロもします」

 選りすぐられた畑からのシャンパーニュは高価なだけでなく、飲む者のいずまいを正すような気品を備えている。ドゥーツで言えば、1993年がデビュー・ビンテージのシャルドネだけで造る「アムール・ド・ドゥーツ」がその典型だ。「アムール」とは愛。ドゥーツの邸宅を飾るブロンズのキューピッドをモチーフにしている。ラベルも高貴な印象を与える。

女性を狙ったマーケティング

 「ブラン・ド・ブランでミレニアムに向けたキュヴェを造ろうというところから始まりました。コルクの上の王冠をひもでつなぐとネックレスになります。女性はブラン・ド・ブランが好きなもの。きれいなボックスもつけて、女性を狙ったマーケティングを展開しています。100ユーロという価格も決して高くないはずです」

 97年をテイスティングした。グレープフルーツ、パパイヤの香り、進化はゆっくりだが、空気を含ませると酸が和らぎ、クリーミィなテクスチャーと宙に羽毛が舞うような繊細な軽さのとりこになる。今はアンリオの醸造責任者を務めるオディヨン・ド・ヴァリン氏が創り上げた傑作である。

 「コート・ド・ブラン地区のメニル・シュル・オジェ村から60%、アヴィーズ村35%に、モンターニュ・ド・ランス地区ヴィレ・マルメリ村のシャルドネが5%入っています。ヴェルジィとトレパイユの間にあるヴィレ・マルメリ村は格付け95%。ピノ・ノワール向きの畑から生まれるシャルドネが力強さと複雑さを与えてくれるのです」

 ブロ氏が言うとおり、このキュヴェの有名なファンに歌手のマドンナがいる。コンサートの楽屋やパーティには冷えたボトルが欠かせないという。ショウビズ界のセレブたちには特定のシャンパーニュの好みがあり、マライア・キャリーはルイ・ロデレールの「クリスタル」好きで有名。東京ドーム公演のときには、楽屋にゴロゴロしていたとか。「クリスタル」好きは珍しくもないが、「アムール・ド・ドゥーツ」好きというのは、さすが、音楽、映画からビジネス、家庭まであらゆる夢を実現した女王ならではのいい趣味と言えよう。

過去に寄りかからずに未来を志向

 ただ、このメゾンにはさらに上のキュヴェがある。創立者の名前をとった「キュヴェ・ウィリアム・ドゥーツ」である。59年に原型が出来上がり、61年物から商品としてデビュー。最新の96年までわずか13ヴィンテージしか造られていない。ピノ・ノワール55%、シャルドネ35%、ピノ・ムニエ10%。96年はシトラス、グースベリーの香り、若々しい酸が支配するアタックは力強く、中間にかけてクリーミィでナッティな感触が広がり、きわめて繊細な余韻が長く続いていく。

 「スタイリッシュな食前酒として素晴らしいし、フォアグラ、ロブスター、エキゾチックなソースの白い肉にも合います。フィネスとバランスを重んじるドゥーツのコンセプトを最も良く表現したキュヴェです」とブロ氏。

 実はさらに上に特別なものがある。「キュヴェ・ウィリアム・ドゥーツ ロゼ」という。75%のピノ・ノワールと25%のシャルドネで数百ケースだけ造られる貴重品。「クリスタル」「ジャクソン シグネチャー」「クリュッグ」などと並んで目にする機会は少ないが、特別な体験を与えてくれるワインであるのは間違いない。明るいサーモンピンク色、ベリー、白チョコレート、リシュブールを思わせる多彩な花の香りが開き、背筋の伸びた貴婦人のような凜としたたたずまいに官能を慰撫される。「キュヴェ・ウィリアム・ドゥーツ」も創出したヴァリン氏の才能に敬服した。

 現在のドゥーツのエンジンであるファブリス・ロセCEOは「ドゥーツは過去に生きるシャンパーニュであってはならない」と公言している。素晴らしい遺産を持ちながら前進することを目指している。

2004年9月訪問

テキスト&フォト 山本 昭彦

2005年8月25日  読売新聞)
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