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タルラン Tarlant(中)
いにしえの知恵と伝統的な手法への回帰

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地上レベルにある垂直式のプレス機
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地下のキューヴに果汁がそのまま落ちる
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21日に3回目のプレスからとったピノ・ムニエのキュヴェ
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濃厚で甘いピノ・ムニエ
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出番を待つセラーのバリック

 自然なワイン造りを心がける造り手の例にもれず、タルランでもグラヴィティ・フローのシステムを採用していた。シャンパーニュのメゾンでは珍しいかもしれない。

 グラヴィティ・フローとは余計なストレスを与えないよう、果汁の移動にポンプなどを用いず、重力だけで行うこと。ブドウにストレスを与えることなく、醸造過程を進めることができる。そのためには、収穫したブドウを圧搾するプレス機よりも、醗酵に使うキューヴが低い位置にある必要がある。

 このシステムを初めて、目の当たりにしたのは10年も前に、アルザスのツィント・ウンブレヒトでのことだった。地下をくりぬいて醸造施設を展開していた。収穫したブドウはクルマが運んでくるわけだから、プレス機は地面と同じ高さになければならない。その後の醸造処理のために、地下を工事するのは金も手間もかかる。

 大規模なワイナリーなら大工事をすることもできようが、小規模なレコルタン・マニピュランではそこまで難しい。ここでは、ヴァレ・ド・ラ・マルヌの高低差のある地形を利用して、システムを実現していた。地上レベルでプレスし、果汁はそのまま半地下構造のセラーにあるキューヴで受け止める仕組み。キューブの1つには「CB 21-3 M」と書いてあった。21日に3回目のプレスからとったピノ・ムニエのキュヴェという意味だそうだ。

ポンプを使わずに果汁を移動する重力システム

 「坂が多い地形なので、傾斜をうまく利用しています。1階の垂直式プレス機でブドウを搾って、地下で受けるようにすれば自然な流れになります。高低差は9メートルあります」とマダムのミシュリーヌさん。

 ポンプが発明される以前は、どの造り手も重力を移動するしかなかったわけで、いかにテクノロジーが発達しようとも、最後は古人の知恵に勝てないというようなことが、ワイン造りには多くある。地下では、13ヘクタールの畑から区画ごとに仕分けしたキュヴェが温度調節できるステンレスタンクで醗酵されていく。

 訪れたのは収穫2日目の9月22日。絞りたてのピノ・ムニエを味わう。甘くて濃厚。果汁としてのポテンシャルがあることはよくわかる。100%濃縮還元のようなこの果汁が切れの良いシャンパーニュになっていくことを考えると、不思議な感じもする。

 このメゾンのもう1つの特色が醗酵・熟成に樽を使うこと。中庭には乾燥中のバリックがうず高く積み上げられていた。自然派や品質に敏感な生産者は近年、ほとんどが樽に回帰している。ここでは、古樹は樽で醗酵し、若い樹はステンレスタンクも使う。

 「オークは9、10年ものが多いかしら。15年ほど使ったところで新樽に切り替えます。エペルネ近くの町の樽工場とブルゴーニュはサン・ロマン村の樽を使っています」

 そして、もう1つの新しい傾向は古代品種に取り組む若手が増えていること。シャンパーニュはシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエの3種が基本だが、この地方原産のアルバンヌとプチ・メリエを栽培するメゾンが登場しているのだ。いずれも、栽培の難しさから、戦後になって、絶滅しかけていたブドウだ。

接木していないシャルドネを砂地で栽培

 ブノワ・タルランは、ピノ・ブランとプチ・メリエ、アルバンヌを砂地の土壌に植えた。同じ砂地の土壌には、接木していないシャルドネを栽培している。ブドウの根を枯らすフィロキセラに耐性のある米国産の台木を使っていないのだ。昔を懐かしむ意味で、1999年から「ラ・ヴィーニュ・ダンタン」というキュヴェに仕立てている。

 「祖父の代からの知恵で、フィロキセラが襲ってこない砂地の区画がわかっています。そこに、接木していないシャルドネを植えています。以前はブレンドしていたのを、独立したキュヴェにしました」とミシュリーヌさん。そのキュヴェはきわめて興味深いものだった。

2005年9月訪問

テキスト&フォト 山本 昭彦

2006年3月30日  読売新聞)
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