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タルラン Tarlant(下)
新しい地平を切り開く挑戦心と技術

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02年のブドウを主体に造り、デゴルジュマンは05年5月
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「接ぎ木していないシャルドネ」と明示した「ラ・ヴィーニュ・ダンタン」
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味覚の冒険を楽しめる「ラ・ヴィーニュ・ドール」
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オーベルジュも営み、もてなしの心あふれるマダムのミシュリーヌ
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「他人と違うことがしたい」とブノワ

 かつてのロールス・ロイスはエンジンの馬力について、「必要にして十分」と明確に公表しなかった。シャンパーニュの一部の造り手にも、プレスティージュ・キュヴェのブレンド比率などを明かさないところがある。ベールで覆われている方が神話性が高まるという判断だろうか。

 近年のレコルタン・マニピュランに妙な秘密主義はない。製法にかかわる情報はできるだけ開示するのが主流だ。タルランでも、9種あるキュヴェの特徴がそれぞれ裏ラベルに表示されている。例えば、代表的な「レゼルヴ・ブリュット」。産地と土壌を含むテロワール、ブドウ品種の割合、収穫年、ビン詰めの年月、デゴルジュマン(澱落とし)の年月、ドザージュ(糖分添加)量まで記載されている。

 「一般の消費者と顧客のためです。情報はできるだけ公開したほうがいい。隠していいことは何もありません」と、マダムのミシュリーヌさん。自信の表れでもあるのだろう。

 「レゼルヴ・ブリュット」なら、ドザージュは1リットル当たり6・2グラム。極辛口の部類に属する。シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエが各々3分の1。バランスの良さが飲む前からわかる。デゴルジュマンから時間がたつほど、練れた熟成感が出てくるから、消費者には店頭での在庫期間も含めた飲み頃のいい判断材料となる。

 「ドザージュは基本的に1リットル当たり6・2グラム以下に抑えています。近年の傾向ですが、果実の純粋さを表現するため必要なことです。全く加えていない『ブリュット・ゼロ』も造っていますが、ナチュラルな味わいで、寿司との相性が特に良い」

 ロゼ、ヴィンテージなど13ヘクタールの畑から9種のキュヴェを造っているため、このメゾンでのテイスティングにはかなりの集中力が求められる。キュヴェが多いのは意欲の表れだが、最も印象深かったのは3つある。

接ぎ木しないシャルドネで造る「ラ・ヴィーニュ・ダンタン」

 その1つが「ラ・ヴィーニュ・ダンタン」。「昔ながらの樹」という意味のキュヴェは接ぎ木していないシャルドネから造られる。ボランジェの「ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ」を生むピノ・ノワールは、フィロキセラの耐性がある米国産台木に接いでいないので有名だが、シャルドネはシャンパーニュ地方でこれだけだという。

 「父のジョルジュの代から、サーブル(砂)という区画で栽培しています。以前はアッサンブラージュしていましたが、1999年から独自のキュヴェに仕立てています。樹齢は約40年。砂地の畑にはフィロキセラの害虫が襲ってこないと、父は知っていたのです」

 果実の純粋さと深みが素晴らしい。極辛口にもかかわらず、クリーミィなテクスチャーと白い花の愛らしい香り。樽のニュアンスから、ジャック・セロスのトップキュヴェ「シュブスタンス」を思い出したが、こちらの方がよりフレッシュ。フィロキセラで植え替える前のシャンパーニュはどんな風味だったのだろうか。まさに郷愁を呼び覚ます味わいだった。

 もう1つは99年の「ラ・ヴィーニュ・ドール」。ヴァレ・ド・ラ・マルヌの単一畑のピノ・ムニエ100%で醸した、これまた珍しい造りだ。平均樹齢50年。糖分添加なしのノンドゼだが、エキゾチックなパッションフルーツがモカやカラメルの香りに発展する予期せぬ味わい。香りのスペクトラムが極めて広く、表現力に満ちている挑戦的なキュヴェだ。ピノ・ムニエのみのキュヴェと言えば、ジェローム・プレヴォーやジョゼ・ミシェルを連想するが、それらともまた違う味覚の冒険が目の前に広がった。

 「黒パンとオマールやカキなどの強いシーフードに合わせると良いでしょう。ピノ・ムニエはシャルドネやピノ・ノワールより低く見られがちですが、そんなことはない。熟成する力もあります」

 最後がトップキュヴェの「キュヴェ・ルイ」。単一畑のピノ・ノワールとシャルドネ半々で造られた。97、96年を使い、ドザージュは5・7グラム。パンデピス、マロングラッセの複雑な香り、力強さと比類なきバランス。「我々が樽を使う理由がわかったでしょう。この複雑性のためです。これは瞑想のためのワインです」と、マダムがうれしそうにうなずいた。

古代品種の栽培も始めた若き当主ブノワ

 若き当主のブノワはピノ・ブラン、プチ・メリエ、アルバンヌなど滅びかけた品種の栽培にもトライし始めた。曽祖父のジョルジュから、戦前に栽培していたことを教わったのだという。このあたりにも、4代でメゾンを運営する強みがある。

 「他人と同じことはしたくない。栽培や醸造の技術は進んでいるのだから、チャレンジしなければ……好きな造り手かい?樽を使っていても、ジャック・セロスは酸化気味であまり好きじゃない。エグリ・ウーリエはいいね。ピエール・モンキュイも好きだ」

 まだ29歳。10年後にブノワがどんなシャンパーニュを造っているだろうか、そして、現在のボトルがどんな風に熟成しているだろうか。楽しみに待ちたい。

2005年9月訪問

テキスト&フォト 山本 昭彦

2006年4月12日  読売新聞)
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