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アルバロ・パラシオス(1)Alvaro Palacios
ワインは宗教が育てる精神の産物

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超モダンなワイナリーの前で
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丘の上に立つワイナリー
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ひなびたグラタジョプスの村
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険しいレルミタの畑
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剪定作業も簡単ではない

 スペインは広い。代表的なワイン産地は離れて、点在している。フランスも同じだが、有名産地の近くは、交通網が整備され、ある程度の規模の都市が存在する。それは産業として発達しているからなのだが、スペインはそうとは限らない。

 プリオラート。1990年代以降に世界のワイン地図に載った新興産地の遠さも行ってみないとわからない。2月は雪で道が閉ざされる危険もあるという情報に不安を覚えながら、バルセロナから現地を目指した。実際には地中海の青い空が広がり、コートを着ていると暑いほどだった。

 人里離れているとはこのことだ。バルセロナから高速道路で1時間半以上。リュースで一般道に下りて、さらに30分余り。山道を登っていくと、ファルセットという山間の村に着く。ここが終着点ではない。箱根のようなワインディングロードをさらに15分ばかり登ると、ようやくグラタジョプスの村に着く。

 標高は300メートル以上。古い修道院と少しばかりの民家、急峻な崖に張り付いたブドウ畑以外は何もないひなびた土地だ。しかし、この村こそがプリオラートの優れた生産者が世界に向けてワインを発信してきた源泉なのだ。年間3000時間以上の日照と380ミリ以下の降雨によって、地面は南フランスのように乾いている。

 3時間近くかけてグラタジョプスに来る途中は、何度も迷いそうになったが、アルバロ・パラシオスのボデガスはすぐにわかった。小高い丘の上に超モダンな建物が立っている。

 リオハの生産者の家に生まれたアルバロは、89年、友人のルネ・バルビエに誘われて、この地にたどりついた。修道士たちが栽培してきたブドウ畑を見て、この土地しかないと霊感を感じたという話はあまりに有名だ。私の最初の印象は、よくこんな厳しい条件の土地でブドウを育てる気になった――というものだった。北ローヌのコート・ロティよりもはるかに大変そうに見えた。

 アルバロが諭すように語り始めた。

 「この土地には宗教性が宿っているのさ。修道士たちが6世紀にわたってブドウを栽培してきた歴史がある。新しい産地だが、古い歴史を持つ精神的な場所なんだ。優れたワイン産地は、修道院が開拓してきた。クロ・ヴージョも、ドン・ペリニョンもシャトー・ヌフ・デュ・パプも、宗教と何かしらの関係がある。修道士たちは本物の見識と知恵を備えていたんだ」

 そして、標高400〜520メートルに広がる「レルミタ」の畑を指しながら続けた。

 「ワインは精神的な産物だ。レルミタの畑を見たときにそれを感じた。現在は、新世界にもいいワインがたくさん生まれている。しかし、新世界にはそうした精神的な要素がない。偉大なワインにはエモーションが必要なんだ」

 レルミタの畑は遠めにも傾斜がきつい。ちょうど剪定した枝を燃やしているところだった。険しい畑には通路などなく、作業は困難をきわめるのが見て取れる。

 実際に畑に立つと、大変さがよくわかった。スレート土壌はリコレリャ(粘土岩)という固い岩に覆われている。この畑は掘り返すだけでも一苦労だし、やせているから雑草が茂る余地も少なそうだ。ヘクタール当たり11ヘクトリットルという極限的に低い収量も納得できた。グラタジョプスの村の裏には、山脈が控えている。

 「あの山が雨雲をさえぎってくれる。ここは海から15キロしか離れていない。海洋性の気候と内陸の気候の両方の影響を受けている。作業は手でするしかない」

 その言葉通り、男たちが黙々と働いていた。

 アルバロの仕事場はこのプリオラートだけではない。出身地リオハのレイモン・パラシオス、おいのリカルド・パラシオスと共同で展開するビエルソにもワイナリーを運営している。

 普段はどこに暮らしているのか?素朴な疑問をぶつけたら

 「畑の中だよ」と快活な笑みが返ってきた。

2008年2月訪問

テキスト&フォト 山本 昭彦

2008年7月25日  読売新聞)
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